那須弘平裁判官に対する評価(私見)

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※ 評価に当たっては、民事、刑事、公法関係事件という3つのカテゴリーに分けつつ、①具体的妥当性を図っているかどうか、②判断理由を丁寧に説明しているかどうか、③法規の実質的な趣旨解釈をしているかなどを中心に評価する。

経歴は弁護士出身であり、法曹教育にも尽力してきた。補足意見が比較的多く、丁寧な判決理由を当事者に示そうとする意識の高さが見て取れる。バランス感覚に優れており、常識的な判断をする裁判官であると考えられる。

著書として、以下のものがあり、法曹人口の増加に伴う法曹教育への熱心さのあらわれのひとつであるといえる。



1.民事事件の判断について

民事事件においては、同じ第三小法廷の近藤裁判官とともに、被害者救済という観点から、民法160条の趣旨を取り込み、不法行為に基づく損害賠償請求の除斥の起算点をずらす判断は画期的である。

また、ヤミ金からの損益相殺の抗弁についても、被害者救済の観点から、不法原因給付の趣旨を優先させており、事件における具体的妥当性を図る姿勢が見て取れる。



2.刑事事件の判断について

刑事事件の判断で特に評価すべきは、名倉防衛大教授が被告人となった満員電車での痴漢冤罪事件の那須補足意見である。

那須補足意見は、供述の信用性を具体的・真摯というような抽象的な評価で判断するのではなく、「合理的な疑いを超えた証明」の視点から、補強事実、補強証拠、および間接事実に照らした経験則判断のあり方を説いている。

このことは、安易に判決文において、供述を「具体的かつ詳細」と評価して、有罪判断の慎重さを欠く傾向にある下級審裁判官に向けて、警鐘と具体的な指針を発信していると評価できる。

その他の刑事判断に際しても、無罪推定という一般原則の運用にとりわけ慎重な姿勢を示していることも明らかである。裁判長を務めた和歌山カレー毒物混入事件においても、間接事実の綿密な積み重ねをすることで、「合理的な疑いを超えた証明」があるという判断をしているし、死刑回避の事情も最大限考慮しているのであって、否認事件における慎重な判断を尽くす姿勢が認められる。



3.公法関係事件の判断について

憲法関係訴訟においては、従来の最高裁多数意見に多くみられる杓子定規的な判決理由に同調して終わるのではなく、当事者に判断内容を説明しようという姿勢が判決理由から認められ、紛争の実質的解決に資すると考える。とりわけ、補足意見を丁寧に示す姿勢は高く評価すべきである。

国籍法違憲判決では、今井補足意見に同調しており、同補足意見は国籍法の条文から導かれる仕組みを綿密に解釈しており、仕組み解釈の理想的姿と言える。

広島市暴走族条例事件では、合憲限定解釈が可能な場合の2要件を明示した上で、規制の対象となる暴走族およびそれに類する集団とは何かを具体的に明示し、その上で、条文全体の仕組みからその対象の範囲が明らかになるという論法は、説得的である。

一票の価値が問題となる選挙無効訴訟では、選挙区と比例区の1人2票制度を前提として、格差の判断をすべきという持論を展開しているが、これについても、評価が分かれるところであろうが、一定の説得性を持っているというべきである。

空港騒音訴訟では、被害者救済のために、一定期間の将来給付についても認めようとして、具体的妥当性を図った下級審判決の姿勢を評価した反対意見を示している。これは、多数意見には欠けている視点であり、実質的な法律の解釈を行う姿勢が見て取れるのであり、この事件において、かかる反対意見を付したことは高く評価すべきと考える。

君が代伴奏判決については、「伴奏拒否が一般的には歴史感に結び付かず、客観的に外部に表明する行為」なので制約に服するとした杓子定規な多数意見の理由づけに満足せず、補足意見として、原告の個人にとって、精神的苦痛や葛藤を引き起こすのではないかという点に着目すべきことを言及している点や、伴奏行為における内面の価値の重大さ、多数意見だけでは十分に読み取れない制約根拠を丁寧に説明しようとした補足意見を示していることは高く評価すべきである。

この点、確かに、那須補足意見は、外形的行為であることを強調し過ぎているようにも思われ、同じく内心の自由のリーディングケースであるエホバの証人剣道拒否事件最高裁判決が、「内面・外形二分論」という杓子定規な高裁判断を否定し、剣道拒否という外形上の行為であっても、「信仰の核心部分に密接に関連する真摯なもの」であれば特に慎重な判断を要するとした判断との整合性には疑問が残るとする評価もありうるところである。

しかし、那須補足意見は、原告の信念とその重要性に言及しつつ、他の参列者や学生の利益との関係、公務員であることの関係から制約を甘受すべきという丁寧な倫理展開をしており、高く評価すべきともいえ、必ずしも妥当性を欠く結果を導いているとはいえない。



4.結論

以上の考察から、具体的妥当性を図る姿勢は十分に見て取れるし、裁判が当事者の不満を解決し紛争の実効性を図るものであるということから、判決理由を丁寧に示し、多くの判例で説得的な補足意見を積極的に示している姿勢は高く評価すべきだろう。

また、刑事事件では、合理的な疑いを超えているかという点において、慎重な判断を尽くすと同時に、下級審の安易な事実認定への警鐘を鳴らすなど司法が抱える問題に対して最高裁裁判官として取り組む姿勢も共感できる。

したがって、私は、那須弘平裁判官は最高裁裁判官として理想的な職務を遂行しており、憲法の番人としても十分や機能を果たしていることから、罷免すべきとする理由は認められないと考える。

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