宮川光治裁判官が関与した判例

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宮川光治は、最高裁第一小法廷に属している。宮川裁判官は、弁護士出身であり、平成20年9月3日、福田内閣により任命されている。

那須裁判官とともに、司法制度改革における法曹教育に尽力してきたことが経歴から明らかである。1992年頃には、那須裁判官(当時弁護士)とともに、法曹人口の拡大を予測し、「変革の中の弁護士」という本の編者にもなっている。



1.
最決平成21年7月13日(第1小法廷)

<事例>

被告人は,交通違反等の取締りに当たる捜査車両の車種やナンバーを把握するため,大阪府八尾市所在の大阪府八尾警察署東側塀の上によじ上り,塀の上部に立って,同警察署の中庭を見ていたところ,これを現認した警察官に現行犯逮捕された。

警察署の高さ約2.4mの塀の上部に上がった行為について,建造物侵入罪の成立(同罪の構成要件該当性)が問題となった。

<判断>

全員一致で、本件行為は建造物侵入罪の構成要件に該当し、被告人は有罪と判断。

<理由>

本件塀は,本件庁舎建物とその敷地を他から明確に画するとともに,外部からの干渉を排除する作用を果たしており,正に本件庁舎建物の利用のために供されている工作物であって,刑法130条にいう「建造物」の一部を構成するものとして,建造物侵入罪の客体に当たると解するのが相当であり,外部から見ることのできない敷地に駐車された捜査車両を確認する目的で本件塀の上部へ上がった行為について,建造物侵入罪の成立を認めた原判断は正当である。



2.
最決平成21年2月24日(第1小法廷)

<事例>

本件は,覚せい剤取締法違反の罪で起訴され,拘置所に勾留されていた被告人が,同拘置所内の居室において,同室の男性被害者に対し,折り畳み机を投げ付け,その顔面を手けんで数回殴打するなどの暴行を加えて同人に加療約3週間を要する左中指腱断裂及び左中指挫創の傷害を負わせたとして,傷害罪で起訴された事案である。

折り畳み机による暴行(第1暴行)については,被害者の方から被告人に向けて同机を押し倒してきたため,被告人はその反撃として同机を押し返したものであり,これには被害者からの急迫不正の侵害に対する防衛手段としての相当性が認められるが,同机に当たって押し倒され,反撃や抵抗が困難な状態になった被害者に対し,その顔面を手けんで数回殴打したこと(第2暴行」)は,防衛手段としての相当性の範囲を逸脱
したものであった。

本件傷害と直接の因果関係を有するのは第1暴行のみ(第2暴行と傷害発生との間には因果関係なし)であった。

そこで,かかる場合に,正当防衛が成立するのか,それとも全体として,1つの過剰防衛が成立するのかが問題となった。

<判断>

全員一致で、正当防衛の成立を否定。

裁判長裁判官として関与。

<理由>

(被告人および弁護人は,)本件傷害は,違法性のない第1暴行によって生じたものであるから,第2暴行が防衛手段としての相当性の範囲を逸脱していたとしても,過剰防衛による傷害罪が成立する余地はなく,暴行罪が成立するにすぎないと主張する。

しかしながら,被告人が被害者に対して加えた暴行は,急迫不正の侵害に対する一連一体のものであり,同一の防衛の意思に基づく1個の行為と認めることができるから,全体的に考察して1個の過剰防衛としての傷害罪の成立を認めるのが相当であり,(被告人および弁護人が)指摘の点は,有利な情状として考慮すれば足りるというべきである。



3.最決平成21年2月12日(第1小法廷)

<事案>

戦時中,旧満州(中国東北部)に移住し、戦後取り残された中国残留婦人3人が「早期帰国への努力や帰国後の十分な自立支援策を怠った」として、国に損害賠償を求めた訴訟の上告審。

上告理由の有無(民訴法312条1項又は2項所定の場合に該当するか否か)が争点となった。

<判断>

3対1で、上告理由なしとの多数意見(門前払い判決)に対し、宮川裁判官は、上告理由を認め、上告を受理すべきとの反対意見を付与している。

<理由>

私は,本件は,民訴法318条1項の事件に該当すると認められるので,これを上告審として受理すべきものと考える。その理由は,次のとおりである。

本件は,中国残留婦人である申立人ら3名が,国策移民として満州(現在の中国東北地方)に移住していたところ,第二次世界大戦の終盤におけるソ連軍の参戦以降の混乱の中で難民となり,その後30年以上にわたり中国に取り残され,日本に帰国した後も自立のための十分な支援措置を受けられなかったことについて,相手方(国)において,①申立人らの早期帰国を実現する義務があるのに,これを怠り(早期帰国実現義務違反),また,②帰国後の申立人らに対し十分な自立支援措置を講ずる義務があるのに,これを怠り(自立支援義務違反),さらに,③帰国した中国残留邦人の自立支援のために金員給付等の立法をする義務があるのに,これを怠った(立法不作為の違法)ため,精神的損害を被ったと主張し,国家賠償法1条1項に基づき,相手方に対し,慰謝料等の支払を求めている事案である。

(第二審)は,①(国)は中国残留邦人の帰国実現のために種々の政策を講じ,また,②帰国した中国残留邦人に対し日本語教育,就労支援,生活指導及び住宅施策等種々の自立支援策を講じてきているところ,それら立案,実行及び運用は著しく合理性を欠くものとはいえず,相手方に政治的責務の著しい懈怠があったとはいえない,また,③(原告)ら主張の自立支援策を立法することに関し国会議員に対する憲法上の請求権が認められるとはいえないとし,いずれについても,国家賠償法上の違法は認められず,申立人らの請求は理由がないとした。

しかしながら,(原告)らは,危険であることの事前告知及び危険発生時の保護策の立案もないままに国策により大量に移民させるという政府の先行行為により,原告X1については終戦時16歳,X2については13歳,X3については11歳という年齢で,暴民の襲撃やソ連軍の攻撃にさらされながら逃避行を続け,家族とは離散・死別し,極寒の地に生死をさまよう等の過酷な体験を経て中国に取り残されたこと,帰国を強く希望しながらも実現するまで三十数年間から40年間の長きにわたり日本人が不在で日本語の情報も全くない環境に事実上放置され,日本語の能力と日本の社会習慣・生活習慣を身につけることができず,その結果,日本社会において自立して生活し,労働する能力がないままに,申立人X1については昭和53年に49歳で,同X2については昭和60年に53歳で,同X3については昭和63年に54歳で,それぞれ永住帰国した事実が認められる。

このように申立人らが日本社会で自立して生活し,労働することができない状態で帰国することを余儀なくされたのは,政府自身の先行行為の結果というべきであり,政府関係者は,特別な立法によらずとも,条理により,申立人らが日本社会で自立して生活するために必要な支援策を講ずべき法的義務があったと解する余地がある。

また,その支援義務の内容としては,日本語の修得の援助,就労援助,職業訓練及び自立までの生活保持のための生活保護制度・年金の弾力的適用等が考えられるところ,本件においては,これらが早期にかつ適切に行われたか否かについて議論の余地がある。

その後,平成19年12月5日に公布された「中国残留邦人等の円滑な帰国の促進及び永住帰国後の自立の支援に関する法律の一部を改正する法律」により,国民年金保険料の全額国庫負担,新生活給付制度,住宅補助制度及び医療補助制度等の支援策が実現したが,同法による給付の実施開始時点では,(原告)X1は既に79歳,X2は76歳,X3は75歳という年齢に達しており,それまで永住帰国後約30年,23年,21年もの長きにわたり上記のような支援を受けられなかったことに関し,国家賠償法上の違法があるか否かについて議論の余地がある。



4.
最判平成21年1月22日(第1小法廷)

<事例>

継続的な金銭消費貸借取引契約をした原告に過払い金が発生したため、不当利得に基づく返還請求をしたところ、被告の信販会社側が、過払い金発生時のおいて、原告は返還請求が可能であったので、民法166条1項の「権利を行使できる時」に当たるとして、消滅時効の起算点が過払い金発生時であることを前提に、不当利得返還請求権は消滅したと主張した事例。

継続的な契約における、過払い金の消滅時効の起算点が時期が争点となった。なお、過払い金のそもそもの問題は債務者の側が、自分の支払いが過払いに至っていることがわからない状態で、支払い続けてしまうことにあるという点を補足的に説明しておく。

なお、同判決について、管理人は別途記事にて評価しているので、興味のある方はこちらを参照してほしい。

<判断>

全員一致で、過払い金の消滅時効の起算点を取引終了時と判断し、原告勝訴とした。

<理由>

(本件)基本契約は,基本契約に基づく借入金債務につき利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には,弁済当時他の借入金債務が存在しなければ、(その)過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含むものであった。

このような過払金充当合意においては,新たな借入金債務の発生が見込まれる限り,過払金を同債務に充当することとし,借主が過払金に係る不当利得返還請求権を行使することは通常想定されていないものというべきである。

したがって,基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引が終了した時点で過払金が存在していればその返還請求権を行使することとし,それまでは過払金が発生してもその都度その返還を請求することはせず,これをそのままその後に発生する新たな借入金債務への充当の用に供するという趣旨が含まれているものと解するのが相当である。

そうすると,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,同取引継続中は過払金充当合意が法律上の障害となるというべきであり,過払金返還請求権の行使を妨げるものと解するのが相当である。

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