金築誠志裁判官の関与した判例

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金築誠志裁判官は、現在、第一小法廷に所属している。金築裁判官は平成21年1月26日、麻生内閣により任命された。前職は、大阪高裁長官である。下級審裁判官時代は、民事裁判への関与が中心の経歴を持っている。



1.
最決平成21年7月13日(第1小法廷)

<事例>

被告人は,交通違反等の取締りに当たる捜査車両の車種やナンバーを把握するため,大阪府八尾市所在の大阪府八尾警察署東側塀の上によじ上り,塀の上部に立って,同警察署の中庭を見ていたところ,これを現認した警察官に現行犯逮捕された。

警察署の高さ約2.4mの塀の上部に上がった行為について,建造物侵入罪の成立(同罪の構成要件該当性)が問題となった。

<判断>

全員一致で、本件行為は建造物侵入罪の構成要件に該当し、被告人は有罪と判断。

裁判長裁判官として関与。

<理由>

本件塀は,本件庁舎建物とその敷地を他から明確に画するとともに,外部からの干渉を排除する作用を果たしており,正に本件庁舎建物の利用のために供されている工作物であって,刑法130条にいう「建造物」の一部を構成するものとして,建造物侵入罪の客体に当たると解するのが相当であり,外部から見ることのできない敷地に駐車された捜査車両を確認する目的で本件塀の上部へ上がった行為について,建造物侵入罪の成立を認めた原判断は正当である。



2.
最判平成21年4月23日(第1小法廷)

<事例>

宇治市の住民である原告らが,旧地方自治法242条の2第1項4号に基づき,本件被告(宇治市)に代位して提起した住民訴訟において一部勝訴した。

その後,原告らは,同条7項に基づき,宇治市に対し,一部勝訴した別件訴訟において訴訟委任をした弁護士に支払うべき報酬額の範囲内で相当と認められる額として1500万円の支払を請求した。

本件では,旧地方自治法242条の2第7項にいう弁護士報酬の「相当と認められる額」の意義が問題となった。

<判断>

全員一致で、原告一部勝訴(300万円とした第二審の判断を破棄し、900万円とした第一審の判断を支持)。

宮川光治裁判官の補足意見,涌井紀夫裁判官の意見があり。

裁判長裁判官として関与。

<理由>

法242条の2の定める住民訴訟は,住民が,自己の個人的な権利利益の保護救済を求めて提起するものではなく,地方財務行政の適正な運営を確保することを目的として,自己を含む住民全体の利益のために,いわば公益の代表者として提起するものであり,これに勝訴すると,結果として普通地方公共団体の財務会計上の違法な行為又は怠る事実が防止され又は是正されることになる。

特に,旧4号住民訴訟は,住民が普通地方公共団体に代わって提起するものであり,この訴訟において住民が勝訴したときは,そこで求められた是正等の措置が本来普通地方公共団体の自ら行うべき事務であったことが明らかとなり,かつ,これにより普通地方公共団体が現実に経済的利益を受けることになるのであるから,住民がそのために費やした費用をすべて負担しなければならないとすることは,衡平の理念に照らし適当とはいい難い。

そこで,同条7項は,旧4号住民訴訟を提起した住民が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合に,その訴訟を委任した弁護士に支払うべき報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払を普通地方公共団体に対して請求することができることとしたのである。

法242条の2第7項の以上のような立法趣旨に照らすと,同項にいう「相当と認められる額」とは,旧4号住民訴訟において住民から訴訟委任を受けた弁護士が当該訴訟のために行った活動の対価として必要かつ十分な程度として社会通念上適正妥当と認められる額をいい,その具体的な額は,①当該訴訟における事案の難易,②弁護士が要した労力の程度及び時間,③認容された額,④判決の結果普通地方公共団体が回収した額,⑤住民訴訟の性格,その他諸般の事情を総合的に勘案して定められるべきものと解するのが相当である。

(本件)事実関係によれば,別件訴訟の判決認容額は1億3000万円を超え,判決の結果被上告人は約9500万円を既に回収しているというのであるから,(被告である宇治市)は現実にこれだけの経済的利益を受けているのであり,別件訴訟に関する「相当と認められる額」を定めるに当たっては,これら認容額及び回収額は重要な考慮要素となる。

住民訴訟の目的,性質を考慮したとしても,上記の考慮要素をもって,原審のように,一般的に,従たる要素として他の要素に加味する程度にとどめるのが相当であるということはできない。

一方,原審(第二審)は,別件訴訟の事案が特に易しいものであったとか,別件受任弁護士らが訴訟追行に当たり要した労力の程度及び時間がかなり小さなものであったなど,「相当と認められる額」を大きく減ずべき事情については何ら認定説示しておらず,むしろ,別件受任弁護士らは訴訟追行に当たり相当の労力を要したことが推認されるなどと説示しているのである。

そうすると,原審は,一つの重要な考慮要素と認められる前記認容額及び回収額についてほとんど考慮することなく別件訴訟に関する「相当と認められる額」を認定したものであり,他に原審の認定した額を「相当と認められる額」とすべき合理的根拠を示していないから,その判断は,法242条の2第7項の解釈適用を誤ったものといわざるを得ない。


3.
最決平成21年2月24日(第1小法廷)

<事例>

本件は,覚せい剤取締法違反の罪で起訴され,拘置所に勾留されていた被告人が,同拘置所内の居室において,同室の男性被害者に対し,折り畳み机を投げ付け,その顔面を手けんで数回殴打するなどの暴行を加えて同人に加療約3週間を要する左中指腱断裂及び左中指挫創の傷害を負わせたとして,傷害罪で起訴された事案である。

折り畳み机による暴行(第1暴行)については,被害者の方から被告人に向けて同机を押し倒してきたため,被告人はその反撃として同机を押し返したものであり,これには被害者からの急迫不正の侵害に対する防衛手段としての相当性が認められるが,同机に当たって押し倒され,反撃や抵抗が困難な状態になった被害者に対し,その顔面を手けんで数回殴打したこと(第2暴行」)は,防衛手段としての相当性の範囲を逸脱
したものであった。

本件傷害と直接の因果関係を有するのは第1暴行のみ(第2暴行と傷害発生との間には因果関係なし)であった。

そこで,かかる場合に,正当防衛が成立するのか,それとも全体として,1つの過剰防衛が成立するのかが問題となった。

<判断>

全員一致で、正当防衛の成立を否定。

<理由>

(被告人および弁護人は,)本件傷害は,違法性のない第1暴行によって生じたものであるから,第2暴行が防衛手段としての相当性の範囲を逸脱していたとしても,過剰防衛による傷害罪が成立する余地はなく,暴行罪が成立するにすぎないと主張する。

しかしながら,被告人が被害者に対して加えた暴行は,急迫不正の侵害に対する一連一体のものであり,同一の防衛の意思に基づく1個の行為と認めることができるから,全体的に考察して1個の過剰防衛としての傷害罪の成立を認めるのが相当であり,(被告人および弁護人が)指摘の点は,有利な情状として考慮すれば足りるというべきである。

なお、以下、下級審時代の判断をいくつか示す。



1.東京地判平成6年3月30日

<争点>

歯科医師がインプラント手術を実施し患者に上顎洞穿孔を生じさせたり、慢性化膿性歯槽骨炎を生じさせたことについて、善管注意義務違反の債務不履行が認められるか否か。

<判断>

上顎洞穿孔は、インプラント手術時か、少なくともその後間もなく生じていたものと推定されるが、被告が上顎洞穿孔を認めて、それに応じた治療を開始したのは、手術後約八か月を経過し、原告が東京医科歯科大学付属病院口腔外科で上顎洞穿孔の可能性を指摘されたことを被告に告げた後の昭和五八年八月末と認められる。

しかし、原告については、前記のとおり、手術後間もなくから悪質な上顎洞炎の症状が見られたのであり、その段階でも穿孔の発見の可能性はあったものと推認され(右可能性の有無が確認できない一因は、診療録の不存在にあると考えられるので、被告に不利益に認定すべきである)、同年四月には徳永耳鼻咽喉科で歯性の蓄膿症と診断され、同年六月ころ原告から痛み等を告げられたのであるから、遅くともその時期には上顎洞穿孔の可能性を疑い、直ちにそれを確認して、上顎洞と口腔との交通を絶つ措置を講じるべきであったと認められる。

したがって、被告には、上顎洞穿孔の発見が遅れたことにより、原告に対し不当に長期に排膿、疼痛、痺れ、咬合痛等の苦痛を与えたという点についても、診療契約上の注意義務違反が認められるというべきである。



2.東京地判平成5年7月28日

<争点>

被告が、平成4年2月27日付けの夕刊フジ一面記事において、「勝新いぜん(暴)交際」「六本木で誕生パーティー・・・金ヅル戻った!?」との見出しを掲げた上、「関係者によると『勝新の誕生日には、関西方面から暴力団関係者が大挙して上京し、六本木のある場所で盛大な誕生パーティーを開いた」という。」との内容の記事を掲載した行為が名誉棄損に当たるか争われた。

<判断>

本件記事は、Mが被告神戸支局に勤務する同僚からの情報を端緒として、警視庁防犯部所属の知り合いの捜査官から電話で取材した結果のみに基づいて執筆したものであるが、同証人は、取材源である同捜査官の氏名等を明らかにすることを拒み、Mが同捜査官からいかなる内容の情報を受けたのかという点について、M証言以外の証拠により検証することはできない。

この点をしばらく措くとしても、右捜査官から得た情報について、原告の誕生パーティーが行われた「A」や、原告及びその主宰するプロダクションに問い合わせたり、Sないしその周辺の取材を行うことにつき、とくに支障があったとも認められないのに、Mは、本件記事を執筆するに当たり、これらの裏付け取材を全く行わないまま、右捜査官から得た情報(その内容もかなり曖昧である)を真実であると速断し、前記のような真実と認められない内容の本件記事を執筆したものであるから、Mが本件記事の内容を真実だと誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らして相当な理由があったとは、到底いえない。

諸事情を考慮すると、本件名誉毀損により原告が受けた精神的苦痛を慰謝すべき賠償金としては、金200万円が相当である。

しかし、謝罪広告については、その性質上、名誉回復のためにその必要性がとくに高い場合に限って命ずるのを相当とする措置であるところ、原告が本件記事を問題にした最大の理由はコカイン等輸出事件の判決に及ぼす影響であったと認められるが、①右事件については既に執行猶予付きの有罪判決が確定していること、②本件記事が原告の社会的評価を低下させた程度は限定されたものであること、③暴力団との交際を大見出しとした本件記事が掲載されたのは比較的発行部数の少ないA版のみであることなどに鑑みると、本件においては謝罪広告の必要性までは認められない。

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