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02/21/2020

日本の危機管理能力がいかに乏しいかを世界に知らしめたクルーズ船隔離の失敗

世間の関心は,この話題に集中しているのではなかろうか。神戸大学の岩田健太郎教授による指摘から明らかになったクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」内での隔離と検疫政策の失敗である。

1.厚生労働省技術参与の高山義浩氏の反論の説得力

私は,あくまで法務,訟務,コンプライアンスを専門とするキャリアを積んできたので,感染症はおろか医学系については素人である。もっとも,あらゆる係争は裁判の場においては,裁判官は素人的感覚をもって,専門家の意見などの証拠資料を吟味し,社会通念上何が相当であるのかということを経験則に照らして判断していく。そこで,私も素人的観点から,高山氏の反論を読んでみた。しかし,結論として高山氏の反論を読んでも,何ら岩田健太郎氏が指摘した事実の不存在を裏付けるような反論にはなっていないというのが正直な素人的感想である。以下主要な点について評価したい。

というのも、現場は乗客の下船に向けたオペレーションの最中であって、限られた人員で頑張っているところだったからです。そうしたなか、いきなり指導を始めてしまうと、岩田先生が煙たがられてしまって、活動が続けられなくなることを危惧したのです。まあ、クルーズ船とは特殊な空間ですし、ちょっと見まわしたぐらいでアドバイスできるものではないとも思ってました。

 この部分は何ら反論にもなっていない。単に経緯を述べているに過ぎない。

 >DMATのチーフのドクターと話をして、そうすると「お前にDMATの仕事は何も期待していない、どうせ専門じゃないし、お前は感染の仕事だろう、感染の仕事やるべきだ」という風に助言をいただきました。

これ事実です。岩田先生は、これで自分は感染対策についての活動ができるようになったと理解されました。ただ、船には、DMATのみならず、厚労省も、自衛隊も、何より船長をはじめとした船会社など、多くの意思決定プロセスがあります。その複雑さを理解されず、私との約束を反故にされました。せめて、私に電話で相談いただければ良かったんですが、そのまま感染対策のアドバイスを各方面に初めてしまわれたようです。

この部分は,岩田教授に根回しをしてほしいと言っているに過ぎず,何ら,指摘した問題点に対する反論にもなっていない。

 もちろん、岩田先生の感染症医としてのアドバイスは、おおむね妥当だったろうと思います。ただ、正しいだけでは組織は動きません。とくに、危機管理の最中にあっては、信頼されることが何より大切です。

この部分もむしろ,厚労省のオペレーションがまずいことを認めた上で,組織論を振りかざしているに過ぎず,厚労省の対応が指摘通り問題だったことをむしろ自認しているといえる。

 しかしながら、実際はゾーニングはしっかり行われています。完全ではないにせよ・・・。

この部分は,我々は中を見ていないから何とも言えないわけではあるが,後述するとおり,厚生労働副大臣の自爆的ツイッターの投稿から明らかに素人目からして,隔離はできてないと判断できると思う。ゾーニングの定義がわからないが,密閉できるような状態ではないにしても,もっとビニールなどで覆うなどして,何らかの隔離というのはできないのかと素人の大多数の国民は思ったに違いない。

こんなことは初めての取り組みです。失敗がないわけがありません。それを隠蔽するようなことがあれば、それは協力してくださった乗客の皆さん、仕事を放棄しなかった乗員の方々、自衛隊の隊員さんたち、そして全国から参集してくれた医療従事者の方々を裏切ることになります。 

この部分も,現場で頑張っているという精神論的な論調であり,説得力がある事実は何も摘示されているとは思えない。むしろ,岩田教授が告発して初めて多くの国民に,命の危険にさらされている乗客,乗員,医療従事者の現状が明るみになったのであって,隠ぺいしていないとしても,情報を積極的に開示してこなかった厚生労働省の責任は極めて重いのではないだろうか。アメリカ政府(CDC)も日本の対応は不十分であり,帰国者を更に14日間隔離すると表明している。厚労省は,アメリカ政府が日本の施策が明白に失敗したという烙印を突き付けていることに気が付くべきであろう。

私の米国時代の友人は,米国政府の中枢におり,この問題に対して非常に強い関心を持っているが,岩田教授の告発ビデオと共に後述の橋本厚生労働副大臣が投稿して,慌てて削除した写真を共有したところ,閉口していた。

結局のところ,高山氏の反論投稿を読んでも,何ら厚労省の対応に対する危機感は変わらないと感じた人が大多数なのではなかろうか。この反論のあらゆるところに人格攻撃的な文言が散らばめられており,かつ,そこを大々的に政府の側も突いた反論をしていたが,この反論からは日本政府がおかしな政治主導を振りかざし,無責任に場当たり的な対応しかしていないのが問題であるということを追認すらしているものの,何ら岩田氏の指摘に対する反論にはなっていないといえるだろう。

さらに言えば,岩田教授は、現場の人を批判してるのではなく,そのようなオペレーションをさせてしまっている体制を批判してるのであって,「一致団結していかなければ 」などと精神論をしている場合ではない。真正面から批判を受け止め,どう改善すべきか指示を仰げば良いのではないか。なぜそれができないのであろうか。多くの国民や海外の人がそう思ったからこそ,岩田教授の告発に多くの国民と海外メディアが共感しているのだと思う。

2.橋本岳厚生労働副大臣の自爆

さらに,池田清彦先生もツイッター上で指摘されているが,厚労副大臣の姿勢と認識が国民の不信感を増幅させている。

 Piv

この写真を見たら,素人でも隔離なんか全くされていないと感じるのではなかろうか。

今我々は未知のウイルスが蔓延する危機に接しているのである。にもかかわらず,このような程度で,「ゾーニングができている。隔離ができている。」などと言われても,通常人の合理的判断からして,「それはないだろ!」というのがまともな感覚の持ち主の反応だろう。

そして,あり得ないのが,この投稿がまずいとなると,この副大臣は,投稿を削除して事実を隠蔽したというのだからもはや笑うしかない。さらにこの副大臣はなんとこんなん、泣いてまうやろ…。ありがとうございます。がんばります。 」と写真を投稿している。この写真を見た国民はどう思うだろうか。この投稿を見た国民の多くは,「え,船内にあったものだよね。そこにウイルスついてないの?それちゃんと除菌している?」って思うであろう。

しかしながら,この副大臣は,その点に対する説明は何もなく,これらが政府関係者,検疫,医療従事者,ボランティアに配布された事実を明かしている。

このような弱い認識で,ウイルスが拡散したのではないのかという危惧さえ植え付ける投稿を無責任にしているのである。すなわち,厚生労働副大臣の認識は,世間の危機感からは全くもってかけ離れており,リスク管理ができていないことを声高らかにアピールしているのだから,あきれてしまう。危機管理をしなければならないという緊迫感がなく,チャンカワイ的な軽い投稿をする厚労副大臣に不信感以外のどんな感情を国民に抱けというのであろうか。

今回の一件で私は初めてこの橋本岳という政治家を知ったが,なんと,橋本龍太郎の息子だったらしい。なんとも,小泉の息子と言い,あんぽんたんな世襲議員だったか・・・という感想しか持てないのである。岡山県の選挙区の人にはこのような馬鹿政治家を当選させてしまったことを本当に恥じてほしい。

3.広がる岩田教授への共感

ハフポスト日本版は,「声を上げられないスタッフを代弁してくれた」という船内の声を報じている。印象深いのは,この記事の中で,次のような声を紹介している点である。

乗船前、全てのスタッフは、船内の避難経路や非常時の汽笛の合図などについてのブリーフィングを受けるよう義務付けられていますが、危険区域と安全区域についての説明など感染管理に特化したブリーフィングはありませんでした。

でも、当時は、乗船業務に当たる上で必要な知識は事前に共有されているものだと思っていたので、色々疑問に思うことはあっても、自分は専門家ではないので、恐いと思ってはいませんでした。

つまり,日本政府はこの未知のウイルスに対峙しなければならない人たちの安全なんて一切考えていなかったということである。ここに,日本政府が,いかに危機管理(クライシスマネジメント)に弱いかということを示しているといっても過言ではないだろう。

よく,「欧米社会では謝らない。謝ったら負けを認めることになる」などと欧米を知らない人が良く言うが,実際のところ彼らは「Apology」という言葉を多用する。むしろ謝った上で,いかに正しい方向に修正するかという点に重点が置かれている。つまり,海外の組織は,間違いに気が付けば,責任問題などよりも,まずは修正して如何に改善するかに着目する。

他方で,日本社会は間違ってはいけないという点を重視するあまり,解答がないクライシスに対する対応が下手なのである。100%適切にやっていると強弁して指摘は受けないというのが日本の組織によく見られる。これは極度に責任問題を恐れるからである。

今回の一件はそれを如実に表しているのではないだろうか。

馬鹿げた体制論者の与党の政治家などが,「岩田教授の指摘は日本を貶める」などと寝ぼけたことを言っているが,むしろ,こういう声が出ないことの方が,日本を貶めているのであって,そういう馬鹿な人たちは,自らの発言が中国の共産党独裁国家と全く同じことを言っているとは一生気が付かないだろう。情けない限りである。

 

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