監査法人制度の闇その2
前回の記事「東芝の粉飾決算疑惑に見る監査制度の闇(BLOGOS版記事はこちら)」では,品質管理を担当している業務執行社員が東芝の事案に関与しているにもかかわらず,全事業にわたり粉飾疑惑が生じていることなどに触れ,東芝の会計監査人が本当に妥当な監査をしてきたのか,予定調和のシャンシャン監査ではなかったのかという疑問を呈した。
我が国の会計監査に対する信頼を揺るがす可能性のある粉飾決算疑惑が大企業の東芝で生じている最中,監査法人のあり方そのものを問うニュースがもう一つ海外から発信されているので,今回はそれを紹介しようと思う。
ウォールストリートジャーナル紙電子版が報じるニュースである。(日本語版はこちら。英語版はこちら。)
端的に説明すると,アメリカの監査法人であるErnst & Young(EY)がウォルマート社の監査人を長年務めているところ,メキシコ政府に対する贈賄(米国腐敗防止法違反)について,ウォルマート社が米当局に報告する以前から知っていたにもかかわらず,必要な手段である当局への通報を行わなかったとして,株主のグループが告発したという記事である。
先の記事でも紹介したが,我が国で問題となっている東芝の会計監査人は,新日本有限責任監査法人であり,この監査法人はErnst & Young(EY)のメンバーファームである。
メンバーファームといっても,いわゆる看板を借りているだけという監査法人も少なくなく,他国のメンバーファームとの連携が取れていないところも多いと聞くことから,米国EYの報道が必ずしも,新日本有限責任監査法人に直結するわけではないものの,今回のタイミングでこのような報道が海外で出ていることから,取り上げることとした。
このニュースの内容について,信ぴょう性は未だ何とも言えないが,仮にこれが事実だとすれば,やはり全世界的に,企業から報酬をもらって会計監査を行うという監査法人に対して,「市場の番人」としての機能は期待できないことを示唆しているのではないかと考える。
大手監査法人に勤務する会計士から聞いた話であるが,一部の大規模クライアントについては,監査の実態としては予定調和であり,会計士が問題を呈することが憚られる雰囲気があるという。つまり,監査報酬をもらっていることから,クライアントに対して従属的な関係になってしまっているというのである。
また,大手監査法人においては,傾向として,会計士がサラリーマン化しており,弁護士等の他士業に比べると,士業としての矜持が薄弱で,毎年,予定調和の作業を行っていると聞く。
さらに,監査法人をめぐる問題は根深いと思わせる話すら聞こえてくる。
例えば,海外では,会計監査において使用した証拠を整理した監査調書を電子データで保存し,一定の基準日以降は,その内容を改変することは物理的にできなくなっている仕組みが浸透している一方,我が国の会計監査においては,法的には改ざんは許されないことに変わりはないものの,監査調書を紙で保存する場合が主流で,紙の監査調書は,容易に閲覧が可能で,物理的に中身を差し替えることが難しいことではないというのである。
法律上はかかる改ざん行為は違法であり,懲戒事由に該当することは当然であるが,物理的に可能な状態にしている現状はあまりに性善説に過ぎるであろう。
ある会計士の話では,「監査調書はあえて紙で保存するようにしている」という。その理由は,言わなくても想像に難くない。
このような話を聞くと,やはり,監査法人そのものに対する強い不信が生じてくる。
やはり,士業に従事する者はあえて厳しい基準で自分たちを律しなければならない。
士業についての批判的記事を書くと必ず,各業界の利益代表みたいな意見が寄せられるが,こうした意見はあまりにも,一般的な社会通念から著しく乖離しており,国民の不信を招くことは言うまでもない。
現に,会計士業界の悲願は監査報酬の増額であるが,J-SOXの導入などでバブル的な状況ができたものの,監査報酬の増額という悲願は達成できていないのであり,これは,企業側が会計監査がいかに杜撰で価値がないかを知っているからだという話は広く知られているところであろう。
いずれにしても,今回の東芝の事案やウォルマートの事案において,必ずしも上記のような状況があるのか否かは現時点では不明であるが,我が国においては,オリンパスの粉飾事案など大きな経済事件が既に起こっているのであって,そうした状況を踏まえると,会計監査人を務める監査法人制度に対して,業界の利益だけの改革ではなく,市場の公正・安定という見地から,金融庁は抜本的な改革をすべきではなかろうか。
ところで,前回の記事の最後に掲載していたDVDを今回はぜひ紹介しようと思う。
それはエンロン事件を描いたアメリカの映画である。
ある知り合いの会計士は,この映画で描かれている会計士の姿は耳が痛い内容だという。
この映画の中で描かれているエンロン社の会計監査人であったアーサーアンダーセンの会計士たちの姿は,我が国の一部の公認会計士にも当てはまるということはないだろうか。
弁護士や会計士などの士業が増えている中で,市場原理から数を減らす必要はないと考える一方,「性悪説」に立った仕組み作りが急がれる。
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