ジャーマンウィング社飛行機墜落事故報道について
ルフトハンザ航空の傘下のジャーマンウィング社の航空機墜落事故を受け,副操縦士の自殺説が断定的に報道されている中,死人に口なしとばかりに性急かつ極めて意図的で,断定的な検察当局の発表に,私は強い違和感を感じている。
しかし,そのような違和感を感じていたのは私だけではないようである。ブルームバーグ電子版に掲載されているレオニド・バーシドスキー氏のコラムも,私が抱いた違和感と同様の違和感を指摘している。
そこで,今日は,そのコラムを紹介しつつ,私見も発信したい。
ジャーマンウィングスの副操縦士、アンドレアス・ルビッツ氏が意図的に9525便をフランスの山間部に墜落させたとして、世界中のニュースメディアが一斉に同氏を集中攻撃している。 「アンドレアス・ルビッツ27歳、正気を失ったパイロット」とドイツの大衆紙ビルトは一面に大見出しを掲げた。「操縦室の殺人犯」と表現したのはロンドンのデーリー・メール紙。英紙インディペンデントは「操縦室の大量殺人者」ともう一段階過激だ。このほかにもメディアには「狂人」や「失恋パイロット」、「そもそもなぜ免許を与えたのか」などの言葉が飛び交っている。
これらはすべて、仏マルセイユのロバン検察官の発表に基づいている。副操縦士が「航空機の破壊を望んだ」と検察が結論付けた根拠は、コックピット・ボイス・レコーダー(CVR)に残された音声データだ。しかしながら、ここから導き出すストーリーは解釈次第で変わる。明らかに分かっているのは機長が操縦室を離れ、副操縦士がひとり残されたということだ。そしてロバン検察官によると、副操縦士は機長の再入室を妨害し、機体を急降下させたことになっている。
機長は何度もドアを叩いたがドアは開かれなかった。ルビッツ氏から言葉は発せられず、ボイスレコーダーにはドアを叩く音と叫び声を背にしたルビッツ氏の呼吸の音が残された。
まず,最も重要な前提として,客観的な事実から現時点で唯一明らかな事実は,ボイスレコーダーには副操縦士の声は一切録音されておらず,呼吸音のみが残されているという点である。
もっとも,報道されている憶測に基づき,この一事をもって,副操縦士が確定的な故意をもって,航空機を墜落させ自殺を図ったと安直に結論付けるには無理がある。
私が特に違和感を感じるのは,呼吸音のみが録音されていたという点である。
つまり,乗客を犠牲にして,自殺を図る人間が呼吸のみを発して航空機を墜落させることができるのかという疑問である。
如何に突発的な故意で当該行為を行ったとしても,何らかの声,例えば,独り言などが録音されているのが自然ではなかろうか。
とりわけ,機長がコックピットの外で叫びドアを破壊しようとしていたという状況の中,故意に航空機を墜落させようとしているのであれば,そのようなパニック状況の中で,自分を奮起させるために何らかの独り言を発して,当該犯行を決行するといった状況の方が自然な状況と思われる。
しかしながら,副操縦士から聞こえたのは呼吸音のみというのである。
ブラックボックスのボイスレコーダーの性能については私は詳しくはわからないが,呼吸音が記録されるような精度の高いものであれば,当然,わずかな独り言であっても,それを副操縦士が発していれば,記録されていてしかるべきであろう。
そのような記録がないのであれば,副操縦士は自らの行為が多数の関係ない命を巻き込む殺人行為であることを多少なりとも意識しつつ,当該犯行に及ぶのであるから,全く何ら声を発することなく実行行為を敢行したとするのは,あまりに不自然ではないかと思うのである。
ロバン検察官が下した結論を裏付けるには、この証拠では不十分だ。操縦室のドアの開閉を説明したエアバスの動画を基に、ボイスレコーダーの音声データを考えると別の解釈も成り立つ。
通常なら外の者が中にいる操縦士にインターフォンで連絡し、キーパッドを操作、そして中の者がその電子音を確認してドアを開ける手続きになっている。手続き通りにいかない場合、外の人が暗証コードを打ちこめばドアは30秒間開錠される。
暗証コードは入力されたのか
機長が操縦室を離れている間にルビッツ氏が意識を失い、機長や乗務員が正しい暗証コードを入力できなかった可能性は考えられないだろうか。
あるいは機長があらかじめ決められた手続きに従わず、ドアを叩いたとしたら。エアバスの動画によるとこの場合、中にいる人はドアをロックするためのボタンを押さなくてはならない。ルビッツ氏がハイジャックだと思い込んでパニックに陥り、同機を着陸させようとしたという可能性はないだろうか。
同氏のコラムは副操縦士がテロリストと考えパニックに陥って着陸させようとしたという可能性を指摘するが,この点については,私は賛同できない。
仮にハイジャックと思いパニックに陥ったのであれば,やはり何らかの声が記録されていてしかるべきではなかろうか。
つまり,呼吸音のみが記録されていたという現時点で唯一の客観的事実にもっと目を向ける必要があるのであって,なぜ呼吸音のみが記録に残っていたのかということをもっと検討されなければならないのではなかろうか。
呼吸音のみ録音されていたから意識があって,故意をもって,墜落させたなんて言う結論にはおよそなりえないのである。
様々な情報を慎重に検討せず,通院歴等々のセンセーショナルな事情を過大に評価し,客観的事実を軽視することは誤った判断に陥るのではないかという強い懸念を感じるのである。
同氏のコラムは次のとおり続ける。
もちろんこういう仮説はどれも本当らしく聞こえないが、ルビッツ氏が抑うつ状態にあった、あるいはガールフレンドとうまくいかずに悩んでいたからといって赤の他人150人を意図的に殺したとの説も同様に本当らしく聞こえない。
ロバン検察官の記者会見では、あるリポーターが副操縦士の宗教について尋ねる場面さえあった。これに対してロバン検察官は「テロリストには指定されていない。質問の意味がそういうことだったらだが」と即座に回答している。
フライト・データ・レコーダーの回収を急げ
現実にはフライト・データ・レコーダー(FDR)のテクニカルなデータを解析するまでは、信頼性の高いセオリーを打ち出すことはできない。FDRを回収し解析すれば、どのように高度が変化したかが分かるだろう。航空機墜落調査に関する報道で知られ、自らもパイロットであるバニティフェア誌の特派員、ウィリアム・ランゲビーシェ氏は現段階の調査では分からないことが多過ぎるのに、仏検察の結論はやや早計過ぎると批判する。
ドイツの操縦士労組も同様に、機長が操縦室に戻れなかった理由でさえ現時点では明確ではないとして、FDRを早急に回収し分析することが極めて重要だと主張する。労組の立場としては認めたくないという気持ちも当然あるだろう。
1999年に起きたエジプト航空990便がそうだったように、ルビッツ氏が本当に故意に墜落させた可能性もあるだろう。しかしそれがもっと高い確実性を伴って立証されるまでは、乱暴な非難の言葉は正当化されない。
遺族に心労
こうした状況は普通の若者としてルビッツ氏を知っていた家族だけでなく、墜落犠牲者の遺族にも心労をもたらす。怒りと悲しみはうまく調和しないものだ。またルビッツ氏がうつ病を患っていたと報じるタブロイド紙もあるが、こうした報道はうつ病の患者に汚名を着せる。
メルケル首相は調査が完了するまで行動を自粛するよう呼びかけたその翌日に、自ら「すべての犠牲者と遺族への犯罪だ」と発言するべきではなかった。航空機墜落の調査は結論を急ぐようなものではない。これだけ分からないことが多いなか、私が知りたいのは亡くなったアンドレアス・ルビッツ氏のプライベートではない。なぜ9525便がアルプスの上空で高度を失ったかを知ることの方が、はるかに重要だ。
これは翻訳された記事なので多少よく理解できない点もあるが,おおむね同氏が指摘するように,鬱だったとか,恋人とトラブルがあったとか,網膜剥離の診断書があったというあくまでも憶測としか言えない情報を過大に重視して,乗員乗客を巻き込む殺人自殺をしたとする結論づけるのはおよそまともな事実認定とはいえないだろう。
現在出ている情報だけでは,依然として,故意の殺人自殺と断定することはできない。
考えられる合理的な疑いとして,副操縦士が気を失うなり,意識が朦朧とした状況に陥って声を発することができず,呼吸音のみが聞こえたという可能性が現時点では全く排除できないのではなかろうか。
警察や検察当局が流すリーク情報は何らかの事件の見立てに従って意図的に都合の良い情報のみが流されることを我々は忘れてはいけない。
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