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01/25/2015

イスラム国(ISIS)に対するツイッター利用者の攻撃と海外からの評価

イスラム国により拘束された人質の殺害予告事件が行われ,連日メディアで報じられている中,一部のメディアでは取り上げられているが,まだあまり知られていないのが,日本人のツイッター利用者が,イスラム国の関係者と思われるツイッター利用者のアカウントに対して行った「ISISクソコラグランプリ」という『攻撃』である。

今日は,この現象について,海外,特に英字メディア等の評価を紹介する形で取り上げてみたい。

1.ツイッター上で行われている「ISISクソコラグランプリ」の概要

事の発端は,日本人拘束者の殺害予告動画をツイッター上で掲載していたイスラム国(ISIS)の関係者と思われるツイッター利用者のアカウントに対して,日本人のツイッター利用者が「#ISISクソコラグランプリ」と題したタグを付けて,殺害予告動画の一部の画像を加工して,送り付けたというものである。

この「クソコラ」というのは,糞みたいなコラージュ作品の略であり,クソというのは,「酷い」という意味で使われている。

具体的に言うと,日本人のツイッター利用者が,人質2人と「ジョン」というニックネームの黒づくめのテロリストの顔などを入れ替えたり,別の画像(例えば,アニメーションのキャラクターなど)と入れ替えたりするなどして加工し,イスラム国関係者の思われる利用者に送り付け,それが,「#ISISクソコラグランプリ」と題して,ツイッター上でイスラム国と思われるアカウントなどが炎上しているのである。

どのような画像であるかについては,以下のようなサイトに掲載されているし,ツイッター上で「#ISISクソコラグランプリ」というタグで検索をすれば,発見できるであろう。

本ブログでは著作権の侵害に当たるような画像であるため,かかる画像そのものは掲載しないが,次の2つのサイトから具体的な本件の流れは理解できるであろう。

○ ツイッターで #ISISクソコラグランプリ が流行 → イスラム国の人が洒落にならないほどキレてる

http://matome.naver.jp/odai/2142181104980381001

○ 【謎展開】イスラム国メンバーが #ISISクソコラグランプリ に参戦しだしたんだけど・・・

http://blog.esuteru.com/archives/8026850.html

私は,この行為を発見した当初,「酷い。テロリストに馬鹿が挑発攻撃できてしまう時代。とてつもないことがツイッターで行われてしまっている。」と極めて否定的に受け止めていた。

また,日本のメディアで本件を報じているものも,「不謹慎である」,「人質の命にかかわるのですぐに辞めるべきだ」などと全面的に否定的に報じる風潮である。

また,他のツイッター利用者の反応を見ても,「酷い」とか,「日本でテロが起きたらどうする」とか,「フランスでテロが起きた原因を理解していない」などと極めて厳しい評価が多く見られた。

しかしながら,この日本人ツイッター利用者達の『攻撃』を,意外にも海外メディアは全否定せずに報じている例えば,「テロにユーモアで対抗」とか「アメリカ政府すら成し得なかったことを日本のツイッター利用者が実現した」などとむしろ肯定的に報じているのである。

2.肯定的に報じる英字メディア

そこで,いくつかの英字メディア,ジャーナリストの反応を紹介する。

なお,和訳は私が簡易に仮訳を付したものであり,誤訳等があるかもしれないことを前提に読んでいただきたい。

日本のツイッター利用者がイスラム国にコラージュ画像で対抗(Japanese Twitter Users Stand Up to ISIS with...a Photoshop Meme)」と題した英字記事は,各コラージュ画像を紹介した上で,次のとおり指摘する。

いくつかのコラージュ画像をみると,ツイッター利用者が単にテロリストによる身代金要求という状況を軽視し,ふざけているだけなのかは判然としない。

他方で,日本人のツイッター利用者は,コラージュ画像で,イスラム国をからかっているように見える

人質の命を軽んじ,呑気過ぎるのではないかという懸念があるのは明白である。

しかし,日本のツイッター利用者は,恐怖を通じて人々をコントロールしようというテロリストの手法に対し,ユーモアで対抗しているのではかなろうか

(With some of the Photoshops, it's unclear if people are simply making light of the situation. In others, it does appear that they are poking fun at ISIS. The concern, obviously, is that people might seem too light-hearted about the lives of these men. Or perhaps, they're using humor to resist being controlled through fear?)

【中略】

はっきりしていることは,日本のツイッター利用者が日本政府に対し身代金を支払うように圧力をかけろというテロリストの要求に対して,それを拒否しているということである。

(What is clear, however, is that there are some Twitter users refusing to bow down to demands that they pressure the Japanese government to pay up. For now, that is.)

このように,全面否定することなく,客観的な視点から分析し,肯定的な面を指摘しているのである。

また,アメリカのNBC Newsの電子版も「日本のツイッター利用者がインターネット画像でイスラム国を嘲笑う(Japanese Twitter Users Mock ISIS With Internet Meme)」と題し,この現象を紹介した上で,次のとおり指摘する。

日本のツイッター利用者は,日本人人質事件において,全国的なコラージュ風刺画像を用いた戦いで,イスラム国を嘲笑うことで反抗している

(Japanese Twitter users are defying their country's hostage crisis by mocking ISIS with a nationwide Photoshop battle of satirical images.)

【中略】

ソーシャルメディア分析会社のTospy社によると,「ISISクソコラグランプリ」という日本語のフレーズは,この1日,2日で,6万回以上もツイッター上で言及されているという。これらのつぶやきでは,イスラム国の様々な人質映像の一部を切り取り,面白おかしく日本のゲーム文化の画像などとともに,多くが加工されている。

(The phrase, which loosely translates to "ISIS Crappy Photoshop Grand Prix," has been mentioned more than 60,000 times over the past few days, according to social analytics company Topsy. These tweets include screengrabs from various ISIS hostage videos photoshopped in comical ways, and many of the images reference Japanese gaming culture.)

このとおり,アメリカの大手メディアも必ずしも否定的には報じていない。

さらに別の英字メディアは,「日本の馬鹿げたイスラム国のプロパガンダに対する対応は,アメリカ政府でさえ成し遂げられなかったことをやってのけた(Japan's silly response to ISIS propaganda did what the U.S. government couldn't)」と題し,次のとおり指摘する。

今週,日本のインターネット利用者は,団結してイスラム国を嘲笑うためにコラージュ画像を用い,馬鹿馬鹿しく,軽蔑した画像をテロリストに送り付けるという戦いを展開した。

この努力は人質の救出には繋がらないであろうが,将来のテロを防止するという点において,少なくとも役立つものである。

(This week Japanese Internet users rallied together to mock the Islamic State (a.k.a. ISIS or IS) with a Photoshop battle that shows the terrorists in a series of  absurd and contemptuous images. This effort won’t save the hostages, but it could, in at least a small way, help prevent future terrorism.)

【中略】

アメリカ政府は,イスラム国のネット上でのプロパガンダに対し,反論のためのプロパガンダ技術を駆使してきたが,これまでのところ,アメリカ政府の試みは失敗に終わっている。

アメリカ政府の手法は,ジャーナリストに反イスラム国のメッセージを送ったり,粗末に作られたビデオを作成したりするというものであって,時代遅れであり,いずれもパッとしないものであった。

アメリカ国務省の前顧問であるShahed Amanullah氏もガーディアン紙に対し,アメリカの戦略はイスラム国のグループを強くしてしまったに過ぎないと認め,「イスラム国は彼らの支持者に対し,『見てみろ?我々はすべてにおいて力がある。アメリカがそれを証明している。』と言わせてしまっている」と述べている。

(The U.S. government has tried counter-propaganda techniques by engaging with IS online, but has failed thus far. Their methods, which include sending anti-IS quotes to journalists and creating poorly produced videos, are dated and lackluster. In a piece for the Guardian, former State Department advisor Shahed Amanullah says that America’s tactics have only made the group stronger: “They turn right around to their followers and say, ‘See? We’re every bit as powerful as we say we are, the US government is proof.’”)

では,なぜ今回の日本での出来事が貴重なのであろうか。それは,アメリカ政府が失敗してきた試みを効果的にやってのけたからである。

(So, why is Japan’s response so valuable? Because it was effective where America's attempts have failed.)

プロパガンダに対する反論を展開する上で重要なのは,相手の効果を減殺することにある。イスラム国についていえば,武装グループは,自らが正義であり,かつ,獰猛であると見せたいのである。

しかし,イスラム国のプロパガンダを間抜けなアニメのキャラクターと合成することで,日本のインターネットユーザーは,イスラム国自身が馬鹿げた存在であるように見せることに成功したのである。

テロリストグループに参加しようとする人々を,テロリストを世界の指導者が強く警戒しているということを知り,テロリストが自らの正義のために闘っているということが,参加を促すものとなってしまっている。

しかし,日本のツイッター利用者は,テロリストを取るに足らないものとして描写し,弱体化させることで,テロリストが発するメッセージの重さを破壊したのである。

(The point of counter-propaganda is to undercut the other side's efforts. In the case of IS, the militant group wants to look righteous and fierce. By combining IS propaganda with goofy anime characters, Japanese Internet users in turn made IS look silly. Those looking to join the terrorist group know that it is admonished by almost every world leader, which is part of the draw—standing up for what they see is right. But, emasculating these terrorists and depicting them as anything but serious subverts the gravity of their message.)

これは,小さな勝利かもしれない。しかし,テロリストが参加者を増やすことで力を増していることを考慮すれば,日本人がイスラム国に対する完璧な武器を用いて,世界に,そのメッセージを発したことが,新たな参加者を妨げる唯一の方法となるだろう。

(This may sound like a small victory, but considering that a terrorist group is only as powerful as its number of recruits, and it can only draw new fighters through the strength of its messaging, the Japanese may have just provided the world with the perfect weapon against IS.)

このとおり,全面的にこの現象を肯定的に捉えているものもあるのである。

実際、この現象が続く中で,いかなる理由かは不明であるが,いくつかのイスラム国関係者と思われるツイッターのアカウントが凍結されている。

確かに,この現象極めて不謹慎であるようにも思うが,英字メディアの指摘は必ずしも的外れの指摘とは切り捨てられない説得力があることは否定できない。

3.日本の自己責任論の検証

多数の日本人の世論は,イラクでの人質事件の時と同様に,今回の人質事件についても,自己責任論が徹底して浸透していると思われる。

この自己責任論を批判する動きもあるようであるが,なぜ自己責任論が日本では根強く徹底して浸透しているのかについて,以下,少々検討してみたい。

まず,自己責任論は結局のところ日本人の規範意識の高さにある意味起因しているのではないだろうか

つまり,我が国は,規範意識が諸外国に比べて高く,政府などが「危険などで行くべきではない」とか,「危険なので行うべきではない」という明確な忠告があり,その忠告を十分認知できる状況であったにもかかわらず,その忠告を破って,当該行動を行い,それに伴う危険が現実化したとしても,そのような人を助けることの必要性は極めて低いという思考につながっているのであろう。

これはコース外滑走の遭難者への非難という現象についても同じことがいえる。

これは,刑法における故意論にも似ていると思われる。

故意犯を強く批判する本質は,規範に直面して反対動機の形成が可能であったにもかかわらず,あえて当該犯行を行った点にあると説明される。

つまり,「反対動機形成可能であった」というのは,「犯行を踏みとどまることができたにもかかわらず」ということである。

これと似た思考が自己責任論の根底にあるのであろう。

この当否は別途議論されるべきであろうが,自己責任論そのものは,我が国の国民の規範意識の高さを示すものであり,人質に対して冷たいかもしれないが,テロリストには屈しないという姿勢を示すものとしては,否定されるべきものではないと考える。

また,上記の英字メディアの指摘を踏まえ,改めて考えてみると,テロの恐怖に屈し,畏怖した姿勢を示してしまうことがテロリストの目的であるプロパガンダ効果に利することになるのであって,我が国及び国民がいかなることがあっても,不当な犯罪者の要求を受け付けないという姿勢を示すことが,更なる被害を防ぐことになるだろう。なぜならば,日本人を拉致し,殺しても,一切響かないとテロリストに思わせることができるからである。

いずれにしても,テロリストも日本国民の多数が自己責任論を再び強く唱え,さらに,「ISISクソコラグランプリ」などという現象を展開し,テロリストの要求を呑むように働きかける動きがほとんど起きていなかったことは予想していなかったのではなかろうか

※ コラ画像をテロリストと思われるアカウントに送付する行為が刑法の外患に関する罪に当たるとかいうわけのわからない主張があったので,言及しておくが,単に送付する行為は外患に関する罪には当たりえない。当たると言っている人はいかに無知な主張をしているか刑法81条以下の各条文を読んでみることをお勧めする。他方で,コラ画像は著作権を侵害し違法なものもある。

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Comments

凍結の件、こういった物が流れていましたのでsン項まで
http://anond.hatelabo.jp/20150121183206

クソコラグランプリ内でイスラム教自体を貶める内容が見受けられる事について軽くでも否定的に触れてあると見ていて安心出来るので是非

Posted by: | 01/25/2015 02:20 am

クソコラに参加したものです。
賛否両論は当然のことと思いますが、すでに外国には実際に親兄弟・友人知人をテロリストに殺された人もおり、ISIS関係者に送るメッセージや風刺画像はもっとダイレクトで挑発的なので、今回のクソコラがとりわけ挑発的なものとして受け取られることはないのではと思います。
外国のメディアが比較的肯定的なのは彼らも日頃からテロと「敵対」するリスクを負っているというところにもあるかもしれません。

ISIS側も人質の動画というショッキングなものを公開した後なのでツイッターという意思表示の場がある以上、罵倒や非難の嵐になることは予想していたでしょう。
私自身もテロリストの脅迫に対して中指を立てて見せるところをクソコラにしたという感覚です。(理解を得られる行為ではないので事前にフォロワーにはフォローを外すよう通告しておきました。)

主に日本人に対するテロの可能性を強めたということで批判されるクソコラですが、真にリスクを高めるのは世界の複雑な情勢への配慮を欠いた政府の発言であることは今回の件でも明らかです。
人道的な目的で使われる義援金の意図がアラブ諸国の人に伝わっていなかったのなら、政府のPRの仕方を問う必要があるし、外交の方針が日本人の安全に関わる場合はもっと事前に議論する場が必要でしょう。
クソコラへの批判はある意味当然で必要なことですが、上記の事も忘れず追求すべきと感じます。

Posted by: | 01/25/2015 04:01 am

大変興味深い内容なのだがアフィリエイトサイト(はちま)の記事載せてるのだけはいただけない

Posted by: | 01/25/2015 10:49 am

そもそも、「身代金要求の映像が合成されたものなのではないか?」という疑惑が根底にあるんですよね。

全員が全員ではないと思いますが
「雑なコラージュなら自分達でも簡単に作ることができる。
お前達の映像は信用するに値しない」
というメッセージが込められているように感じました。

Posted by: | 01/25/2015 06:07 pm

その後の後藤氏1人の映像について例えばBBCあたりが、ナイフ男が映っていないなどISISの従来の手法と異なるのは何故かを分析していましたが、自分たちが再びネタ化されるのに耐えられなかったのも理由の1つではないかと推測します。

Posted by: | 01/26/2015 07:32 pm

新たな要求動画がこれまでの形式と異なっている理由として「一時的に指揮が崩れており、プロパガンダのクオリティに影響した」という可能性はありますか?

また反応したメンバーのアカウントが凍結されはじめていることを含めて考えると、もしかすると指揮が崩れているのでは?と感じるのです。
サジダリシャヴィという死刑囚もイスラム国内で上層部が求心力を高めるために利用できそうですし…

指揮が崩れた状態でプロパガンダを作る人材が削られていれば、
安倍総理を呼び捨てにしたり、捕虜の立場なのにISISをテロリストと言うような、詰めの甘い「原稿」が出来あがります。

Posted by: | 01/27/2015 05:03 pm

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