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04/08/2014

侵害排除ではなく機会を逃さずに侵害を活用する柔軟な発信力が重要

政府は平成23年5月にクールジャパン官民有識者会議の提言を発表し,経産省がそれに基づいて,施策を進めているが,提言から約2年経った今,この「クールジャパン」によりいかなる効果があったのであろうか。

少なくとも,個人的なレベルで,このクールジャパンの効果が出ているなと感じる現象は海外とのやり取りや外国人の友人とのやり取りの中でまったく感じることはできていない。

また,経産省の平成25年度のクールジャパン戦略推進事業の概要を見ると,パワーポイント資料もごちゃごちゃとしてて見づらく,そこに記載されている事業は,どれもピンと来ない話ばかりではなかろうか。

資料がごちゃごちゃして見づらく何を伝えたいのか一見して分かりにくい時点で,税金をつぎ込み,その事業に投資すべき価値はないと思うのであるが,日本の官僚はこのようなごちゃごちゃと詰め込んだ資料で,いかにも「凄いことをやるぞ感」を出し,物事の本質を見えにくくして,無駄遣いという批判を回避するのには長けている。

いずれにしても,提言から2年経つが,このクールジャパンという施策の効果は,巨額の税金を投入したものの,かつてのイギリスのブレア首相主導の「Cool Britannia」(Rule Britanniaという歌をもじった造語)のような経済構造の根本に影響を与えるような抜本的な改革につながるようなものは,我が国の「Cool Japan」政策からは一つも見えてこない。

むしろ,経産省が示している資料をみると,経産省という極めて古い,バブル意識から脱却できない利権体質の省が担当しているということで,このクールジャパンという施策がいかに税金の無駄遣いではないかと益々思えてくるのである。

既に,クールジャパンがいかに無駄であるかという点は,様々な人が指摘しているので,今日は,クールジャパンなどという税金の無駄遣いをしなくても,我が国の文化発信は視点を変えることでいかに成功に導くことができるかについて,著作権侵害に対する対応という観点から,私見を発することとする。

日本企業は,特に日本のエンターテイメント産業は,ネット上での著作権侵害を発見した場合,その著作権に基づき,侵害を排除することを常に考えているようである。

しかしながら,インターネットがこれ程普及し,ネットのない生活は極めて不自由という時代において,程度の大小はあるにせよ,ネット上での著作権侵害は日常的に行われている。

日本のエンターテイメント産業にとって,そのコンテンツ力を世界に発信する上では,この現状を直視し,侵害の排除より,侵害行為をいかに有効利用して,PRにつなげていくかという視点が重要ではなかろうか

例えば,3月に公開された映画,「アナと雪の女王(英語題名:Frozen)」では,アメリカのディズニー社は,この映画の核となる歌,「Let it go(ありのままで)」を映画公開後にYouTube上に公開し,積極的にPRとしてネットを活用している。

YouTube上に公開するということは,その動画そのものや音源を違法にダウンロードされ,さらには,それらの違法なダウンロードにより取得した動画や音源を活用して作られた動画等により二次的な著作権侵害も発生するおそれがあることは明らかである。

現に,YouTube上には,この曲のカバーとして素人が歌う動画が沢山存在するが,私がネットを調べた限りではあるが,ディズニー社が昨年12月6日に「Let it go」の動画を公開して以降,現在まで,カバー曲の動画について削除を申し立てたという話は,ネット上ではほとんど見つからなかった。

むしろ,米国ディズニー社は,動画を積極的に公開し,コメント欄も自由に書き込める状態にしたうえで,カバーにより話題となることをむしろPR戦略として,積極的に著作権侵害を許容しているように思われる。

例えば,次の動画は,大学で音楽を専攻する19歳のジェアードさんがアップロードした男声バージョンの「Let it go」のカバー曲動画である。

もともと女性向けのこの歌を見事に男声で歌い上げており,この19歳の青年の歌唱力の高さは大変素晴らしい。

もっとも,この動画で,彼は,歌詞を「I'm the king」とか「good boy」,「perfect boy」と変更して歌われているところ,かかる変更であっても,厳密にいえば,同一性保持権の侵害ということになると思われるが,むしろ,ディズニー社は,彼のような素人が作成した二次的著作物に当たるカバー曲の動画を積極的に許容しているようである

つまり,素人であるにもかかわらず,彼のように才能のある若者が素晴らしい歌声で,自由に男声バージョンのカバー曲を作成することができるインターネットという空間と対峙するような形で自分たちの著作権を保持しようとするのではなく,むしろ,彼のようなカバー曲の動画がアップロードされ,YouTube上でディズニーの音楽が評判となることそのものが,同社社の広告となり,同社の収益につながるという柔軟な発想があるように思われるのである。

アメリカのメディアは,「『Let it go』のカバーのトップ5」などと取り上げる記事やイギリスのテレグラフ紙電子版も「inside Disney's billion-dollar social media hit(ディズニーの10億ドルのソーシャルメディアにおけるヒットの内幕)」と題した記事で,ネット上での同映画とこの「Let it go」という歌への反響の大きさを報じている。

そして,YouTube上では,素人のカバー動画にとどまらず,様々なプロの歌手によるカバー動画が続々と登場しているのである。その一例が次の動画である。

ところで,「Let it go」のオリジナル動画は,米・ディズニー社のアカウント上のものだけで,約4か月の間に,1億7,000回以上も再生されており,この数字だけでも人気の高さは明らかであるが,イギリスディズニー社や日本のディズニー社もそれぞれ別のアカウントで,同じ動画を公開していることから,動画の再生回数は2億回は優に超えている

さらに,米・ディズニー社は,今年1月22日に,積極的にYouTubeに「Let it go」の25か国版をアップロードし,これも話題を呼んでいる。

そもそもディズニー社は著作権に厳しい企業であるとされているが,これだけネット上で話題となっている「Let it go」については,この絶好の時機を逃さず,積極的に,YouTubeを宣伝の場として捉え,本来は著作権侵害に当たるカバー動画等に寛容な姿勢を示していることは,結果として,この歌が更なる話題を呼び,安く絶大な効果のある広告となっているのであって,これは侵害を活用する柔軟な発信力の一例といえよう。

他方,同じディズニー社でも,日本のディズニー社はスタンスが少し違うようである。

例えば,ロケットニュース24の英語版サイトの記事は,松たか子さんが歌う日本語バージョンの「Let it go」について,「力強い歌は,オリジナルの言語ではなくとも,うまくいくことを立証している」と高く評価しており,日本語バージョンの「Let it go」にも世界的に関心が高まるっている。

しかしながら,米・ディズニー社や英国・ディズニー社のアカウント上の動画については,コメント欄も自由に書き込みができるようになっている一方,日本のディズニー社の動画コメント欄は書き込みが禁止されており,動画に対する自由な論評を避けようとする制限的な姿勢が表れているのである。

これでは,折角,松たか子さんが歌う日本語版の「Let it go」が素晴らしい歌声だと世界で絶賛され,既に900万回以上も再生されているにもかかわらず,世界中の人の生の反響をコメント欄からは窺い知ることができない

コメント欄を制限的に運用した結果,900万回以上の再生回数があるにもかかわらず,世界の反響である生の声を確認できないのであるから,折角の広告のチャンスを自ら喪失しているのではなかろうか

コメント欄の取扱いという極めて小さな違いではあるが,私は,ここに,日米の権利意識に対する柔軟さの違い(権利侵害を排除するのが利益なのか利用するのが利益なのかという視点に対する日本企業の鈍い姿勢)があるように思えて仕方ない

松たか子さんが歌う日本語バージョンの「Let it go」が世界でさらに評判となることは,日本語の響きの良さを世界に発信するチャンスとなると思うのであるが,こうした機会を的確に捉え,日本企業が柔軟に対応することで,無駄税金をつぎ込むことなく,コンテンツ力の発信は十分できるのではないかと思うのである。

なお,これは,スーザン・ボイルさんが一世を風靡した時にも見られた違いである。

スーザン・ボイルさんが話題となると,イギリスのITVは積極的にYouTubeにその動画を公開し,「Britain's Got Talent」という番組そのもの絶大な宣伝効果を生んだが,スーザン・ボイルさんを日本に招へいしたNHKは,紅白歌合戦での出演映像を軒並み,著作権侵害を理由に排除するという措置をとったと記憶している。

もちろん,権利侵害を排除することは一つの方法ではあるが,話題となっている人物について積極的に公開することで,NHK紅白歌合戦という番組そのものを世界にPRする絶好チャンスであったが,それを十分生かすことができなかったように思われる。

いずれにしても,日本企業がこれからコンテンツ力を外に発していく際には,著作権保護を図ることはもちろん,YouTubeなど世界的なインターネットメディアにおける権利侵害をいかに利用していくかという柔軟な対応を図っていくことで,世界への日本文化の発信に絶大な効果を発揮するのではないだろうか

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