半沢直樹が面白い理由
5か月ぶりのブログ更新である。
そんなに多くはいないだろうが、記事を楽しみにしてくださっていた人には申し訳ないが、記事を書きたいというモチベーションが最近はなかなか起こらなかった。
しかし、今回私もぜひ評論したくなるテーマがあったので、久しぶりに記事を更新することにした。
それが、TBSのドラマ、「半沢直樹」が面白い理由である。
そもそも、私は日曜日9時は、テレビ朝日の日曜洋画劇場などを見ながら、ダラダラと月曜日が来ることへの嫌悪感をごまかしていたが、たまたま、堺雅人さんが主演のドラマが始まるとのことで、「演技力のある役者である堺さんのドラマだから、まあ見てみるかな」という程度の気持ちしかなく、あまり期待せずに、何気なくチャンネルをTBSにしたのがこのドラマを見始めたきっかけである。
その時、私は、「どうせ最近多い面白くないドラマの一つだろうから、15分くらい見てチャンネルでも変えようかな。」という程度の気持ちでこのドラマを見ていたが、この気持ちは、番組開始直ぐに打ち消され、このドラマの中の世界観に引き込まれた。
このドラマのヒットは、既に多くのメディアが注目し、今や半沢直樹は、視聴率でも30パーセントを超え、同局の同じ時間帯の「華麗なる一族」をももはや超えたブームになっており(華麗なる一族の5回分の視聴率は、27.7%、21.8%、23.5%、23.0%、21.2%と次第に下がったのに対し、半沢直樹は、19.4%、21.8%、22.9%、27.6%、29.0%と常に上昇している)、なぜこのドラマがここまでヒットしたのかについては、ずいぶん多くの考察がなされているが、ドラマの監督もこのドラマがここまでヒットするとは思っていなかったようである(この監督の考察はズバリ的を射ており、かなり説得力があるのでぜひ読んでもらいたい)。
そこで、私も個人的になぜ半沢直樹が面白いのかについて、私見を発してみようと思う。
半沢直樹が面白い理由であるが、これは既に色々指摘されており、大方その見方に同意するが、私は、1番の理由は、「キャスティングの本物さ」ではないかと思う。
昨今、アベノミクスという得体のしれない経済への期待感をメディアは煽っているが、多くの国民は、いまひとつその効果を感じることができない現実社会において、多くの人は、ある種の本物志向が強まっているように感じる。
つまり、経済が良くなることに淡い期待を抱くこともないが、過度に節約に走るのではなく、良いもの、本物には惜しむことなく消費したいという意識が強くなっており、これはそれだけ消費者としての目が厳しくなっていることの顕れでもある。
この社会の風潮に、半沢直樹はまさにマッチしたのではないだろうか。
具体的にいうと、どんな役を演じても同じ演技しかできないような演技力のない名前だけの大手事務所所属の俳優を主役に置くのではなく、様々な訳を演じ分ける演技力のある俳優の堺雅人さんを主役に持ってきたのが正解だったと思う。
さらに、半沢の部下も、下手な有名俳優ではなく、脇役をそつなく演じ、かつ印象に残す演技ができる俳優の須田邦裕さんやモロ師岡さんを置き、逆に若い新人役にジャニーズの中島裕翔さんをキャスティングすることで、ジャニーズの若手俳優の演技の稚拙さをも新人の初々しさとして描くことができ、見事に配役設定がマッチしたのではなかろうか。
他方で、歌舞伎役者の香川照之さんや片岡愛之助さんがそれぞれ癖のある役の大和田常務や黒崎統括査察官を、宇梶剛士さんがどっから見ても悪役と言える東田社長を見事に演じる一方、北大路欣也さんのような重鎮が頭取を演じており、作品全体に重厚感を出しているのもこのドラマの本物さを表している。
そして、ミュージカル俳優の石丸幹二さんが、半沢直樹の第一部の宿敵である浅野支店長を人間味あふれる演技力(部下に責任を押し付け、自分はより良い生活のために生き残ろうとする姿は正に人の弱さと強欲さという人間味の顕れでありこれを大胆かつ自然に演じる力)で演じていることが、このドラマのキャスティングの本物さを際立たせている。
どことなく、「華麗なる一族」を彷彿とさせつつも、「華麗なる一族」のようなダラダラとした流れとは全く違うテンポの良い進行も、視聴者にとって、新鮮なキャスティングによる本物さを感じさせ、現代社会の肥えた日本人の目に適った作品に仕上がっていることが、このドラマの成功の最大の要因ではなかろうか。
当の出演者には失礼かもしれないが、私は人事部次長の小木曽を演じた緋田康人さんという俳優はこのドラマを見るまで知らなかったが、こうした実力はあるが有名ではない俳優が多数出演し、異彩を放つ演技で視聴者を楽しませているのがこのドラマの面白い最大の理由であると感じる。
さらに、私は、東田社長の愛人である藤沢未樹を演じた檀密さんにも感心した。ファンの方にも申し訳ないが、そもそも檀密さんがテレビで取り上げられても、特に美人であるとは思わなかったし、どうしてそこまで持ち上げられるのかわからなかった。しかし、このドラマで彼女が演じた藤沢未樹の姿は、何を考えているかわからない女性の妖艶さとともに、働く女性の強さと儚さみたいなものを自然な形で表現しており、バラエティー番組でみる檀密さんとは異なる、いわば、藤沢未樹という女性が実在するかのように認識させる彼女の演技力に、感心した人も多いのではないだろうか。
先の監督のインタビューにおいて、福澤監督は、次のとおり述べている。
「半沢直樹」は、これまでのドラマ界の常識で考えると、登場人物に女性が少なく、わかりやすく視聴率を取れるキャラクターもおらず、恋愛もないという「ないないづくし」。それに銀行という“男”の世界が舞台です。セオリーどおりなら、ドラマのメインターゲットと言われる女性は「見ない」ということになりますよね。
この発言にも表れていると思うのだが、テレビ業界は長らく、視聴者の本物志向から乖離し、視聴者を馬鹿にしたような番組しか作ってこなかったのではないだろうか。
それは、TBSが半沢直樹の成功を全く予想せず、世界陸上による休止を挟んでしまうという愚かさが何よりも物語っている。
確かに、演技力がないアイドルやごり押しの俳優・女優を主役においても、娯楽が少なかった時代はそれで通じてきただろうし、今でも、それに乗っかる一定の層はいるのだろう。
しかしながら、長く続く厳しい現実社会の中で、我々日本人の目は娯楽に対しても、一層厳しくなっているのではないだろうか。
そうした風潮の中で、まさに日曜日の夜に月曜日を迎えるのが憂鬱だと感じる多くの社会人がこの番組のキャスティングの本物さに触れて新鮮味を感じ、テンポの良いシナリオ展開に胸を躍らせ、そして、「10倍返しだ!」と理不尽なことには決して怯まない姿勢で戦う主人公、半沢直樹に、共感しているのであろう。
残りの5回分の展開が楽しみで仕方ないが、私はさらにこの半沢直樹の成功が、日本のテレビ業界に衝撃を与え、新しい風を吹き込んでくれることにも期待したい。
キャスティングはあらゆる演技の根幹である。
大手事務所のごり押しのタレントや話題性ありきのアイドルを起用して折角良い原作を台無しにするのではなく、原作の世界観をしっかり考え、そこに出てくる人物のキャラ設定をしっかり考えるという基本に立ち返ることで、結論ありきのキャスティングからの脱却することがテレビ業界、特に、日本のドラマの復活の唯一の道であることを半沢直樹は示しているのではないだろうか。
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Comments
半沢直樹は久々に集中して観れたドラマでした。でも、最後の終わりかたが意味深な終わりかただったな。辞令を申し渡されたときの半沢の目付きが気になる。又、どうせ、スペシャルか映画で完結するんだろうなぁ。ドクターズ2だってまだ委員長が決まってないし…。今のドラマはハッキリとした終わりかたをしない。どうせなら、さっぱりとした最終回を迎えて欲しいものです。半沢も2やるな。視聴率があるとすぐにやるからな。楽しみだ。
Posted by: 倍返しだ | 09/23/2013 10:32 pm