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09/22/2010

刑事司法の根底(廉潔性)が崩壊したニュース

記事のタイトルから何を語りたいかは解るであろう。

もちろん、大阪地検特捜部の前田恒彦主任検事による証拠隠滅事件についてである。

この事件の概要をまだ知らない方は、ぜひ、朝日新聞のWebニュースをご覧いただきたい。

さて、この事件既に報道されているように、前代未聞の事件である。

どう前代未聞かというと、これまで刑事訴訟法が想定していない事件が起こったためである。

従来、警察による捜索・差押手続きに違法がある違法収集証拠の話はよくあった。

具体的には、令状に基づく逮捕をすべきところを、要件が充足しないにもかかわらず、緊急逮捕や現行犯逮捕をしてしまい、その過程で入手した証拠物の証拠能力が争われるというものである。

つまり、逮捕等の手続きに違法があった事例(証拠の収集過程における違法の問題)であって、証拠そのものを加工するという事例では無かった。

しかしながら、今回の事件は、準司法作用を営む検察官、しかも、主任検事というベテランが、客観的証拠そのものに故意に手を加えたか否かが問題となっている

刑事司法においては、客観的な証拠(特に、物証)に関しては、それが領置や差押えされた時点の物そのものであって、捜査機関に加工される事態は想定していない

客観的な証拠そのものをいじられてしまうと、裁判官がその虚偽まで見抜くことはかなり困難である。

元裁判官の安原浩弁護士が、朝日新聞の記事で述べておられるように、「裁判官としては、供述調書は信用性を慎重に吟味するが、物証や鑑定結果などの客観的証拠は基本的に信用できるというのが前提。その客観的証拠に手が加えられる事態は想定を超えている」のである。

つまり、準司法作用の機能を営む検察官が、よもや、証拠を有罪にするために改ざんするとは、裁判所も、刑事訴訟法も、想定していなかった。

読者の中には、電子データの改ざんということの重要性がいまいちピンとこない人もいるかもしれない。

解りやすく言えば、凶器に被疑者や被告人の指紋が無かったにもかかわらず、指紋を事後的に検察官が有罪にするために、指紋をつけたのと同じくらい悪質な行為を行ったことが問題となっている。

真実だとすれば、刑事司法の廉潔性という根本的価値が崩壊する忌々しき事態である。

これは、一人の検察官の犯罪であると同時に、こういうことが起こってしまった検察組織そのものの問題点をえぐりださないと、刑事司法の廉潔性は回復できない

とりわけ、司法権力の担い手である、裁判所は、今回の事件を契機に、客観的な証拠のそれ自体の証明力(証拠価値)への考え方を根本的に見直していかなければならないかもしれない

前述の安原弁護士が指摘するように、「客観証拠自体の信用性も慎重に吟味していく姿勢が裁判所には求められる」のである。

このような事態に対し、最高検は異例の速さで対応し、直ぐに被疑者である前田主任検事の逮捕をしている。

様々な推察があるであろうが、私は、この素早い対応の背景には、検察機構の危機感と焦りがあると思う。つまり、あってはいけない事件があったことへの危機感と焦りであろう。

朝日新聞の報道によれば、大阪地検はこの改ざんについて、事前に把握していたという疑惑も上がっている。

故に、大阪地検の内部調査等を待たずして、いち早く、被疑者の身柄を確保し、最高検が捜査に乗り出したのであろう。

今回の報道は朝日新聞がスクープしたから事件が明るみに出たが、朝日新聞の記者による発見がなければ、この証拠隠滅事件は明るみになることが無かったかもしれない。それを考えると、本当に恐ろしい事件である。

なお、私は、推定無罪の原則に基づき、検察の情報を鵜呑みにするのではなく、独自に事実を検証する記者が本当のジャーナリストであると思う

また、多くの人が抱いている疑問は、この主任検事が関わった他の事件においても、同様の証拠隠滅が無かったのかという点であろう。

NHKのニュースによれば、この主任検察官は、守屋元事務次官の事件や、小沢氏の政治資金規正法違反事件で公設秘書の取り調べなども担当していたようである。

同主任検事による証拠の改ざん行為がどこまで波及するかわからないのであり、これに対しても、最高検は、相当の危機感を強めていると推察できる。

さらに、この問題は、たちが悪く、最近議論されている取り調べの可視化では、防ぐことができない性質を有する。

取り調べの可視化は、取り調べ段階の自白の任意性の判断や調書等の特信性の判断等には役立つが、客観的証拠の信憑性そのものを担保する働きは無い。なぜならば、客観的証拠が差押後に検察により加工されることは刑事訴訟法が想定していないためである。

刑事訴訟法が想定していない事件であるだけに、どのようにして、再発を防ぐかは非常に解決が困難な重大な問題である。

そのように考えると、法律に関し知識が疑わしい素人のような新しい法務大臣の指揮の下、検察の組織的問題をえぐり出せるか否かは甚だ疑問である。

私は、以前、民主党政権下での改革の成果として、岡部喜代子最高裁判事の任命を挙げた。

従来の最高裁判事人事においては、裁判所経験者ルートは下級審の長官経験者を、学者ルートでは東大や京大など出身の生粋の学者を任命する慣例が存在した。

そうした慣例を打ち破り、裁判官と学者という2つの経歴にもかかわらず、人格的にも優れた岡部喜代子氏が判事になったのは、政権交代による変化の兆しとして高く評価したのである。

このような大胆な人事を法務大臣のポストにも期待していたのであるが、結果は、柳田氏という法務問題に関する経験がほとんどない人物が法務大臣となった。

国民の基本的人権に関わる重大な問題を抱えている法務省の改革を素人同然の新大臣に期待できるであろうか。いや、できるはずがない。

今からでも遅くないので、菅直人総理大臣には、この問題を真摯に受け止めてもらい、民間からもっと適性のある人物を法務大臣にしてほしい

それこそ冤罪の恐ろしさを体験された村木氏には、個人的には、従来検察官の出世の通り道になっていたにすぎない法務省の事務次官になっていただき、徹底した司法改革への狼煙を上げてもらいたいが、こうした大胆な人事を菅政権には期待するだけ無駄だろう。

さて、村木さんですが、2000年に慶應大学の犬伏由子法学部教授とともに、女性問題に関する本を出版されているのですね。この機会に、村木さんが女性としてどう社会の壁と向き合ってきたのかを知るのは良いかもしれません。

また、今回の冤罪事件をテーマにした本が出版されているようです。どのような経緯で逮捕・勾留、起訴、そして、無罪判決に至ったのかを再度勉強しなおすのに良いかもしれません。

引き続き今回も紹介します。

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Comments

朝日新聞のスクープとありますが、Twitterで見つけたのですが、以下のリンクにある朝日新聞の2010年会社案内には村木局長逮捕につながったのも朝日新聞のスクープとあります。
http://www.asahi.com/shimbun/honsya/?ref=6
検察のリークをそのままスクープとして流し、村木局長の人生を狂わせかけた反省も必要だと思います。
今回の件が、また内部からのリークで、主任検事一人のとかげのしっぽきりに終わらないように今後の推移を注意深く見守っていきたいと思います。

Posted by: MindMaster | 09/22/2010 at 11:11 AM

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