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09/09/2010

鈴木宗男氏の刑事事件に対する最高裁決定をめぐる議論

鈴木宗男氏の刑事事件に対する最高裁決定が出たようで、昨日はこの話題が多くのメディアで取り上げられていました。

もっとも、この決定をめぐる報道や一部の熱烈な鈴木宗男氏の支持者などが主張している陰謀論については、私は賛同できない旨を今年1月19日付ブログ記事「小沢問題に関する考察 − 検察の捜査方法への疑問」の中で示しています。

また、メディアの報道を鵜呑みにし、自律的な思考の出来ない方々が「次は小沢の番だ。」という短絡的な見解にも賛同できません。

宗男氏と小沢氏の事件は本質的に事案を異にしており、まさに「月とすっぽん」というほど違う話なのであって、これを同一に論じるべきではないことは、上記ブログ記事ので早い段階で示しています。

ぜひ、興味のある方はご参照ください。なお、当該記事はライブドアニュースのブロゴスにも配信されております。

さて、話を鈴木宗男氏の刑事事件に対する最高裁決定に戻しますと、私はこの決定は極めて妥当であり、決定理由も丁寧に示され、的確なものであると考えています。

なるべくこの決定の当否を論じる上では、最高裁決定の原文に当たっていただきたいのですが、忙しい方は、"マスメディアの記事にしては"、驚くほど整理され、的確な要旨となっている47NEWSの記事を参照していただければと思います

まず、本件で問題になったのは、受託収賄罪の成否です。

受託収賄罪とは刑法197条1項後段に規定される罪で、①公務員が、②その職務に関し、③賄賂を収受又は要求若しくは約束し、④請託を受けたことという4点が客観的構成要件となっています。

決定理由を見る限り、争点は、②の要件の「職務関連性」の有無であったということがいえます。

ところで、決定文から推論するに、被告人鈴木宗男氏の弁護人の主張は、3点であったと考えられます(鈴木宗男氏とその弁護人が提出した上告趣意書等は拝見していないのであくまでも唯一万人に公開されている決定文からの推論にならざるをえないことは断っておきます)。

<1点目>

賄賂が、港湾工事について入札を行わずに工事業者を事実上決定することへの働きかけへの対価であるとしても、港湾工事は国の直轄事業であり、農林水産省、建設省、運輸省の所管事業である。したがって、北海道開発庁長官であった被告人は港湾工事に関して、北海道開発局長を指揮監督する権限がなく、②の「職務関連性」を欠く

<2点目>

原審(高裁)は、受注業者を指名する権限が港湾部長の職務権限に属することを認定せずに、北海道開発庁長官であった被告人が港湾部長を指導したことを「職務関連性」ありと判断しているが、これはロッキード・丸紅ルート事件最高裁判例に違反する。

<3点目>

「職務」とは、当該公務員の一般的な職務権限に属するものであることをいうところ、そもそも、談合への働きかけというのは、談合という違法な行為を行うように働きかけるものである。そうすると、談合が違法な行為である以上、違法な行為は、一般的な職務権限には属しえないのであるから、「職務関連性」の要件を欠く

以上が、被告人と弁護人の主張です。

なるほど、弁護人はロス事件で無罪判決を勝ち取った弘中先生だけあって、3点それぞれ、法律構成としてはしっかり考えられているとは思います。

しかし、これらの主張を棄却した最高裁の判断はやはり正当です。

それでは順に、最高裁決定の理由を検討しながら、なぜ私が最高裁決定が妥当であり、陰謀論は聞くに値しないと考えるかを説明したいと思います。

<第一の主張について>

この「職務関連性」の要件の判断基準ですが、判例(例えば、最決昭和31年7月12日刑集10・7・1058)は、(a)一般的職務権限に属するか否か、(b)職務密接関連行為(準職務行為や当該公務員が事実上所管し執務すべき行為)に当たるか否かを問題にしてきました。

そして、本件決定は、受注の請託があった港湾工事そのものは他の省庁の所管事業であることを認めています。

そうであるとすれば、確かに、北海道開発庁長官である被告人の一般的職務権限には属さないし、所管事業ではないのであって、「職務関連性」の要件を欠き、無罪であるという主張は一定の説得力があるように思えます。

しかしながら、本件最高裁は以下のように判示します。

港湾工事の受注に関し特定業者の便宜を図るように北海道開発局港湾部長に働き掛ける行為は、職員への服務統督権限を背景に、予算の実施計画作成事務を統括する職務権限を利用して、職員に対する指導の形を借りて行われたものであり、また、被告人には港湾公示の実施に関する指揮監督権はないとしても、その働き掛けた内容は、予算の実施計画において概要が決定される港湾工事について競争入札を待たずに...工事業者を事実上決定するものであって、このような働き掛けが金銭を対価に行われたことは、北海道開発庁長官の本来的職務として行われる予算の実施計画作製の公正及びその公正に対する社会の信頼を損なうものである。したがって、上記働き掛けは、北海道開発庁長官の職務に密接な関係のある行為というべきである。

簡単に言えば、

1.収賄罪の保護法益が「職務の公正及びそれに対する社会的信頼」である。

2.そして、北海道開発庁長官は、「予算の実施計画作製事務を統括する権限に基づいて、港湾工事の実施計画案の策定に関し、職員を指導できる地位にあった」といえる。

3.そうであるとすれば、北海道開発庁長官である被告人が、港湾工事の受注に関し特定業者の便宜を図るように北海道開発局港湾部長に働きかける行為は、本来的職務である予算の実施計画の作製の公正とそれに対する侵害を損なうといえる行為である。

4.したがって、かかる働きかけは職務密接関係行為であり、「職務関連性」の要件を満たす。

という論法を取っているわけです。

これは保護法益から構成要件該当性を考えるという刑法解釈の模範となる解釈方法であって、非常に論理明快です。

他方、弁護人の主張は、事実上の所管か否かという点に固執しており、保護法益からの解釈がなされておらず、その点において、過去の判例の文言を形式的に適用したという印象です。

最決昭和63年4月11日刑集四二・四・四一九は、衆議院大蔵委員会で審議中の法案について、委員会には属していない衆議院議員に対し、賄賂を提供して、同委員会の議員を含む他の議員への説得を請託した事案ですが、ここでも最高裁は賄賂罪の成立を認めています。

この判例からしても、本件働き掛け行為に職務関連性を認めることは妥当であると考えます。

<第二の主張について>

これは、金築補足意見が詳細に述べています。

弁護人が引用したロッキード・丸紅事件は、総理大臣の職務権限(総理大臣が運輸大臣に働きかけた行為が総理大臣の行政各部に対する指示として、総理大臣の一般的職務権限に含まれると判断した)についての判断です。

ロッキード・丸紅事件では、確かに、運輸大臣の職務権限を認定した上で、総理大臣の職務権限を認定しています。

しかし、金築補足意見は、ロッキード丸紅事件で問題となった総理大臣の指揮監督権限は行政全般にわたる反面、極めて一般性・抽象性が高いので、働き掛けを受ける公務員(この事件では運輸大臣)の職務関連性を認定することで、総理大臣の職務権限を認定せざるを得ない面があるという特殊性を指摘し、この判例を一般化することは相当でないと述べて、本件北海道開発庁長官の事例には、この判例が妥当しない旨を指摘しています。

この説明は非常に説得的です。やはり総理大臣の事案と北海道開発庁長官の事案とを同視して、働きかけを受けた側の職務権限が認定されていないので違法という主張は妥当でないでしょう。

<第三の主張について>

補足意見は、刑法197条の3第1項、2項は、収賄行為とともに、職務違反行為が行われた場合により重く罰する加重収賄罪を定めているので、「職務関連性」の職務は、適法なものに限られず、違法な職務行為の働きかけも「職務」に当たると判断しています。

これも、収賄罪の保護法益が「職務の公正とそれに対する国民の信頼」である以上、適法なものに限るべき理由は無いのであって、保護法益から導く適切な解釈であると考えられます。

<結論>

以上のように、決定文を見る限り、最高裁判例の決定理由は丁寧な理由づけで弁護人の主張を排斥しており、この決定自体には、何ら疑問を挟む余地はないと私は思います。

本件決定は、「職務関連性」の判断において、職務密接関連行為という概念を正面から再度肯定し、その具体的内容の一例を示したという点で意義のある判例です。

したがって、「陰謀である」という主張は、この事件との関係では、考慮の余地すらない妄想的な見解ですし、他方で、この事件をもって、起訴すらされていないしかも政治資金規正法違反事件という全く罪質の異なる小沢一郎氏の事件で小沢氏も有罪になるという見解は到底取りえないというのが私の見解です。

もっとも、職務密接関連行為については、処罰範囲を拡大しすぎていてその範囲が不明確であるという批判もありえるところです。

しかしながら、保護法益が職務の公正とそれに対する社会的信頼である以上、公務員が「職務に基づく事実上の影響力を利用する場合前田雅英「最新重要判例250 刑法第7版」p274)」には、職務密接関連行為に当たるというべきでしょう。

処罰範囲についても、前掲前田p274が指摘するように、「①賄賂を収受する者の公務の大小、裁量権の広狭、②そのような影響力行使がしばしば行われるものか否か、③公務員に働きかけて処分される場合には、当該公務員に対して有する影響力の大小、④影響力行使の態様(地位利用を積極的に行ったか否か)によって決定される」のであり、おのずとその範囲は明確になってくるのであって、これが不当に不明ということにはならないでしょう。

上告趣意書を見ていない以上、弁護人がどこまで職務密接関連行為には当たらないという具体的論法をしたかは解りかねますが、本件最高裁決定が不当な内容という評価はなしえないと私は考えます。

読売新聞などはこの事件についてかなり紙面を割いていましたが、こうした決定の解説は皆無でした。記事を読んでも争点が何か良く解りません。司法関連の報道は本当に陳腐です。多くのマスメディアには、47NEWSを見習ってほしいと思います

なお、一部の方は加重収賄が成立する事案ではないかと指摘されているようですが、私はこの見解には賛同しかねます。

注意深く読めば気づくと思いますが、最高裁決定文は、事件当時、港湾部長が落札すべき業者を指名し、職員を介して通知することが常態化し、官製談合が既に行われていたことと指摘しています。最高裁は、被告人が官製談合を主導的に作り上げたという認識ではなく、既に存在していた官製談合を利用したという理解をしているのではないでしょうか。

そうであるとすれば、特定業者への落札の便宜を図るように働きかける行為それ自体だけでは、職務に違反する不正な行為とは言い難いのであって、職務に違反する何らかの具体的行為の認定が必要です。例えば、入札において最低予定価格を通報した行為(西田p456)などです。

本件では、このような具体的行為の認定はされておらず、働き掛け行為これのみをもって、「不正な職務行為」と評価することはできないと私は考えています。

以下が本日取り上げた収賄罪の理解において参考になる図書です。

引き続き今回も紹介します。

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