日本がアメリカに言うべきこと
この記事を読むと、親米的立場であることを自認する私ですらアメリカの高慢さと時代錯誤が露骨に現れていると感じる。
アメリカに言うべきことは、ただ1つ。
Watch Yourself!(その態度は何だ。気をつけろ)ということである。
日本が日米関係を悪化させているという考え方は、非常に高慢であり、アメリカは自分の立場をわきまえていないと感じる。
仮に普天間問題が日米関係悪化の原因だとするならば、私はアメリカ政府、オバマ政権自身にも日米関係悪化の原因があると考える。
そもそも、アメリカは我が国の統治権たる主権が及ぶ領土の一部を日米同盟という条約によって、「借りている」のである。アメリカ軍の基地内で、アメリカの統治権が及ぶのは日本がそれを条約に基づき、認めてあげているからにすぎない。
条約というのは、国家間の書面化された約束である。これは憲法に劣後する。もちろん、条約を結ぶにあたって、我が国にも当然メリットはあるのであって、日米同盟締結を否定するつもりはない。
しかし、記事中にある「鳩山首相に対する信頼感はすっかりうせ、米政府高官はひそかに日本を見放す姿勢をますます強めている」、「オバマ政権の中には両国の関係がすぐに改善されると信じる者はほとんどいない。少なくとも鳩山首相が政権の座に就いている間は、あり得ない」という発言は看過できないアメリカの高慢さが現れている。
我が国が日米安保条約締結以来、憲法との整合性に苦心し、米兵による種々の非行に対し、牙を抜かれたように、寛容に取り扱ってきたことに対し、こうしたアメリカの発言等々は非礼にもほどがあるのではないだろうか。
まさに、中国の三国志演技の中に出てくる呉の宰相、張紹の気分である。
張紹は元々、大国魏に対し、親和的であり、映画「レッドクリフ」でも描かれていた赤壁の戦いでは、魏と戦うことに消極的だった人物である。その張紹も、魏が君主である孫権を呉王というくらいに封じようとしたときには、魏の使者に対し、激怒したという話は、横山光輝等々の三国志を読んだ歴史好きなら記憶にあるところであろう。
我が国は、アメリカの第51州でもなければ、アメリカの傀儡政権による独裁国家でもない。最高独立性としての「主権」を有し、最高決定権としての「主権」が国民に認められた立憲民主主義国家である。
にもかかわらず、アメリカの高慢で主権を侵害するかのような種々の発言に対し、怒りを示すどころか、日本のマスコミはいつまでアメリカの御意向を覗うような政治を認容し、主体的な民主主義国家に反する報道を続けるのであろうか。
私はアメリカが大好きであるし、アメリカの一部がこうした高慢な態度を示していることは非常に残念である。
感覚的な話で言えば(この部分は根拠を示すことができないアメリカ生活経験者としての感覚的な話なので独断と偏見に満ちていることをハッキリ断っておくが)、アメリカの7~8割は日本になんか関心が無い。残りの2、3割のうち、1割がこうした高慢な態度を見せる似非親日派で、後の1、2割が日本文化等々に関心のある「変わり者」である。
最後のグル―プに属する人々を「変わり者」と称したのは、何もオタクだとかそういう意味だけではない。アメリカのマジョリティーと比較すると、海外に対する関心があり、教養がある層でもあるためである。
世界もアメリカ国民の多くも、オバマ政権の誕生に色々期待したのであろう。私は当初からオバマ大統領のリーダーシップには懐疑的だったし、口だけの政治家の典型だと考え、全く評価してこなかった。
結果、オバマ政権になって良いことは何かあったであろうか。
アフガン、イラク戦争においては、毎日多くの兵士が死亡し続ける一方で、何ら有効な解決策、打開策は見つかっていない。
核不拡散も何ら実効性のある成果は得られていない。金融問題では、ゴールドマンサックス社に対する新たな犯罪嫌疑がアメリカおよびイギリスで生じており、第二の金融危機の懸念も出ている。
さらに、アメリカの国民皆保険制度も、実効性や賛否が渦巻いており、ブッシュ政権が保守化して、国家を二分したのに対する「統合」的な姿勢が期待されたにもかかわらず、極端な社会的リベラル派の色彩が強いオバマ政権は国家の二分化をさらに深めている。
アメリカは、こうした自分たちの姿を客観的に省みて、自分たちの高慢さに反省すべき時が来ているのではないだろうか。
金融危機以降、アメリカに対する超大国としての信用は世界的に見ても地に落ちている。
アメリカはジャパンバッシングやジャパンパッシング(Passing)とか言って高慢な態度を示す前に、自分自身を見つめなおさなければ、逆にU.S. パッシングが広がると私は思う。
現に、他国を見ても、イギリスの選挙でも、UK自由民主党(アメリカとは一線を画しEU色を強める第三政党のリベラル色の強い政党)のニック・クレッグ党首の人気が高まっている一方、親米路線の保守党、労働党は苦戦している。
日本のメディアや一部の新保守主義者(似非愛国高揚主義者)は飼いならすことができても、私のような中庸派、穏健派はアメリカの種々の高慢な態度に嫌気がさしている。
穏健派が嫌悪感を感じ始めている以上、元々反米的な人々が過激な方向に走らない保証はない。そのことに早く気付くべきであろう。
今まさに「アメリカがなぜ嫌われるのか」をアメリカ人自身が考える時が来ているのではないだろうか。
そして、我々日本人も、そんなアメリカがいつまでも日本を中国や北朝鮮から守ってくれると考える能天気な楽観主義もそろそろ捨てるべきだろう。
自衛権に関して言えば、憲法の番人である最高裁は、砂川事件で明言しているように、個別的自衛権は放棄していないのであり、日米安保条約(集団的自衛権等々)について、統治行為で、司法審査になじまないとしている。
私は前にも何度か記事やツイッターでつぶやいているが、これらの法的状況を前提にして、憲法改正を経ることなく、自衛隊のみで、自衛としての「実力」を機能させうる制度構築をすべきと考えるし、必要があれば、アメリカ以外の国々を含めた(イギリス、フランス、カナダ等)との多国的安全保障条約など新たな安全保障体制を構築すべき等の議論がなされるべきだと感じている。
しかし、メディアではそういった議論はなく、安全保障の問題は、日米同盟に固執した現状維持派と改憲論者の対立議論で、面白おかしく終わってしまっているのはどうも複眼的な考察が乏しいと感じてならない。
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以前にも紹介した以下の本は洋書で英語ではありますが、比較的平易に書かれており、アメリカでベストセラーにもなりました。価値観の多様性から見えるアメリカの歴史、アメリカの強さを知る上では、非常に良い本です。学生が英語を学ぶ際の副読本の1つとして、アメリカについても学ぶためには非常に良くできている本です。アメリカのこうした良さが最近は失われつつあるのではないかという懸念を感じます。
記事中に出てきた横山光輝氏の作品は以下。
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【オピニオン】冷え込む米日関係 - ジャパン・バッシングならぬ「ジャパン・ディッシング」
4月23日8時43分配信 ウォール・ストリート・ジャーナル
50年以上にわたる米日同盟において、日本政府と米国政府は、互いに称賛し合ったり、非難し合ったり、無視し合ったりと、驚くほど多くのさまざまな局面を経てきた。そして互いに拒否し合っているのが、今だ。
この米日関係のサイクルが始まったきっかけは、1970年代の「ニクソン・ショック」だ。ニクソン米大統領(当時)の中国訪問と変動為替相場制の開始によって、日本は政治的に不安定かつ経済的に弱い立場に追い込まれた。
80年代から90代初頭にかけては、貿易摩擦が過熱化し、貿易戦争の脅威や制裁措置、保護主義の台頭によって両国関係は損なわれることとなった。日本が次の超大国と化すのではないかとのつかの間の脅威によって、『ザ・カミング・ウォーズ・ウィズ・ジャパン「第二次太平洋戦争」は不可避だ』といった、はらはらさせるような(しかし、完全に誤った認識の)タイトルの本が次々と出版された。日本人の間では、この時期は「ジャパン・バッシング(日本たたき)」の時代と呼ばれている。
90年代に入ると、両国関係は「ジャパン・パッシング(日本外し)」の時代へと移行する。米国の強欲な視線は、日本を離れ、新たに超大国へと成長しつつある中国へと向けられるようになる。
98年、当時のクリントン米大統領は中国を訪問し、9日間も滞在したにもかかわらず、東京には立ち寄ることさえしなかった。これによって、日本は、日本の時代が正式に終わったことをようやく理解した。政治家や世論形成者にとっては、多くの意味において、無視されていると認めることは、たたかれることよりもつらい。バッシングであれば、少なくとも反撃のチャンスはある。
そして今、日本政府と米国政府は新たな時代に突入した。わたしは、この時代を「ジャパン・ディッシング(日本切り捨て)」と名付けたい。鳩山新政権は、自らの主要パートナーに対してさまざまな失策を犯し、一貫した政策を示すこともできず、オバマ政権から非難を買い、ますます無視されつつある。
日本の政治エリートが、米政府の間で日本の評価がいかに下がっているかを知ったら、バッシングやパッシングの日々が懐かしく思えるかもしれない。日本は今、どちらも望ましくない選択肢から選ばざるを得ない「モートンの熊手」状態に陥っている。すなわち、米国に無視されるか、解決のしようがほとんどない問題とみなされるかの、いずれかだ。
日本の政治家の多くは、こうした事態を招いたのは、06年に米日で交わした沖縄在日米軍の再編実施のロードマップを反故(ほご)にし、米政府が受け入れ可能な代替案を提示しない鳩山首相自身であることを理解している。さらに、オバマ大統領が鳩山首相に対する信頼感を失う上で最も決定的となったのは、鳩山首相はオバマ大統領に対して直接、問題を「解決する」と2回も約束していたことだ。
鳩山首相は5月末までに代替案を提示するとしているが、日本でも、米国でも、誰もが満足できるような解決策を鳩山首相が突如見つけられるとは、ほとんど誰も思っていない。さらに、東アジア共同体の形成や気候変動問題で果たす日本の役割の拡大といった、鳩山首相が提唱する偉大な構想は、政治的な現実性のかけらもない。
要するに、鳩山首相に対する信頼感はすっかりうせ、米政府高官はひそかに日本を見放す姿勢をますます強めている。米ワシントンDCで先週開催された核安全保障サミットでは、中国や韓国、シンガポール、マレーシアの各国首脳はオバマ大統領と親密で、実のある協議を行った。
一方、鳩山首相は公式晩餐会でオバマ大統領の隣の席を確保したものの、政府高官筋によると両者の会話は順調に運ばなかった。その後、両国の官僚はいずれも良好な関係の維持を望んでいるとあわてて述べたが、オバマ政権の中には両国の関係がすぐに改善されると信じる者はほとんどいない。少なくとも鳩山首相が政権の座に就いている間は、あり得ない。
ジャパン・ディッシングは、日本、米国、アジアのいずれにとっても好ましくない。アジア諸国は米国とその主要同盟国との関係を神経質に見守り、日米乖離(かいり)の兆しに鋭く反応している。
一部の比較的小さな国は、鳩山首相が昨年提示した東アジア共同体構想に対して、とりわけ厳しい反応を示した。それが米国の排除を意図するものかのように見受けられたためだ。そうなれば将来的に、新たな多国間協定の合意において中国に圧倒的主導権を握られかねない。そうした事態を他のアジア諸国は警戒している。
アジア各国が米国と日本の緊張の度合いを認識し始めていることを裏付けるかのように、わたしは先日、あるアジア主要国の首脳に直接、米国と日本の関係は実際どれほど悪化しているのかと聞かれた。
両国関係の険悪化がこれほど気掛かりなのは、米国も日本も互いに協調する以外に現実的な解決策がないことだ。米国は、在日米軍なくして、アジア地域で確固たる軍事態勢を維持することは不可能だ。かといって、たとえ他のアジア諸国が米軍のアジア駐留をどんなに望んだとしても、代わりに米軍の受け入れを申し出る国があるとは思えない。
そして日本はと言えば、第二次世界大戦から60年以上たった現在でも、いまだに米国以外の近隣諸国とは同盟を組めずにいる。米国との密接な関係が失われれば、日本は今以上に世界で孤立を深めかねない。それは、世界第2位の経済大国にとって健全なことではない。
米日同盟の決裂は誰も望んでいない。だが、鳩山首相が事態を何とか一変させなければ、両国関係は確実に後方に追いやられてしまうだろう。これには、自らの政権の掌握と連立パートナーの抑制、沖縄県民との現実的な基本合意の形成を含め、政治的手腕が要求される。だが現在までのところ、鳩山首相はその手腕をまったく持ち合わせていないように見える。
そうした政治的手腕が発揮されて初めて、鳩山首相は米政府と対等な協議ができる。だが、その時が来るまで、あるいは鳩山首相が辞任するまでは、数十年かけて築き上げられたアジアの安定と繁栄はジャパン・ディッシングによって脅かされ、既に多くの紛争に見舞われている世界にさらなる不透明さと緊張をもたらすことになりかねない。
(マイケル・オースリン氏は本紙のコラムニストで、アメリカン・エンタープライズ研究所の日本部長)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100423-00000001-wsj-bus_all
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Comments
政治ネタは正直よく分からない。でも、メディアを見てて「これもっと噛み砕いて国民に議論を持ちかけなきゃだめだろ」って、そういう声はちょくちょく聞きます。
Posted by: ほめぞう | 04/23/2010 04:46 pm
すみません。私はアメリカで生まれて、18歳まで住んでいました。正直に言うと、貴方の想像の様に、アメリカはそんなに綺麗な国では有りません。特に、第二次世界大戦後からわがままな国に成っています。地球の自由を守るでは無く、自分の欲張り生活を満足する為に世界の国々を支配する努力しています。実はアメリカは帝国です。やはり帝国は正義を他国に与える事は不可能です。その英語のフレーズ"Watch Yourself!"はとても怖いです。現在アメリカの使い方でファシズムの宣言です。私はシカゴに生まれて、数多くの人から違う意見を言うとすごくいじめられます。
ソ連崩壊後、アメリカが無駄の戦争ばかりをしています。生活は違う、考え方が違うと、アメリカは戦争するかも知れません。現在、またイランと戦争しましょう!の話題はアメリカでマスコミの日常会話に成っています。私は自分の気持ちで日本はアメリカより自由な国です。日本では、人は自分のプライバシーを守ります。アメリカで、いつも周りの人々から調べられます。もし、皆と違うと、例えば、ゲイ、それか宗教、いじめ、それとも現在のアメリカで殺される可能性が有ります。
これから、アメリカとどう言う新しい関係を作るか、これが日本の大きいな課題です。
Posted by: Max von Schuler-小林 | 04/23/2010 06:57 pm
通りすがりで失礼します。
北マリアナ連邦にて、テニアンヘの誘致を議会が正式に表明しました。詳細は以下の4月22日の琉球新報および沖縄タイムスの記事を参照下さい。
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-161169-storytopic-3.html
http://www.okinawatimes.co.jp/article/2010-04-22_5933/
常識的に考えれば、これで普天間問題は一件落着のはずです。
世の中には「抑止力を考えると国内」とバカなことをのたまう輩がいますが、普天間の海兵隊は東南アジア、西アジア方面へ展開するための部隊で、日本の抑止力には何の影響も及ぼさないのです。抑止力を考えると、沖縄ではなく北朝鮮に近い山陰や北陸に置くべきでしょう。
これ以上沖縄に過度な負担を与えることは、琉球民族に対する人種差別の恐れがあると、国連からも勧告が出ています。
それに空軍の嘉手納基地など複数の基地がまだ沖縄に残り続けることをお忘れなく。
これまで鳩山氏が、米軍基地の国外移設の目的を達するために、のらりくらり国民を欺いて「ルーピー総理」を演じていたのなら、小泉純一郎に匹敵する「大役者」です。
でも、これだけ好条件が揃っていて、結局5月末までに我々国民に見せた姿そのままに「移設先を決めることができませんでした」では、安部晋三や麻生太郎に匹敵する「バカ総理」と評されるでしょう。
Posted by: 通りすがり | 04/23/2010 08:22 pm
その通りです。
昨日たまたま気になって日米地位協定
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/sfa/pdfs/fulltext.pdf
や日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/jyoyaku.html
を読みました。日本のマスコミは表面的な本当にどうでもいいようなつまらないことしかとりあげられない,腐っています。原理原則から考えようとしない。外務省のサイトでもなぜか地位協定が安全保障条約と比べてアクセスしにくい箇所にあり,アメリカにすりよった人間が作ったQ&Aなどが多数掲載されている。悲しくなります。
Posted by: K | 04/23/2010 10:43 pm
傲慢でもなんでもなく、アメリカが、沖縄、並びにに日本の基地から、撤退する決断をするかどうかです。
最早、沖縄も、本土の基地も、嘗ての冷戦時代のような意味づけは終焉しています。
対中政策にしても、当面、アメリカにとって対処すべき喫緊の課題はありません。北朝鮮には、最早、アメリカが、自身の血を流して何かをしようとする意図はないでしょう。
何があっても、せいぜい安保理で決議するくらいのことです。
米軍が撤退して、同盟関係を破棄して損失を被るのは、一方的に日本だけです。
Posted by: かもかも | 05/22/2010 07:40 am