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03/09/2010

富士通の内紛騒動にみる法律論としての一考察

ツイッターでもつぶやいたのですが、富士通の経営陣のごたごたはびっくりですね。

時事通信によれば、辞任理由について適切な情報開示ではないということから、東証が調査を行うそうです。

富士通関連のニュースで、企業のガバナンスという観点から注目すべきなのは、取締役相談役の秋草元会長の存在のように思います。

同元会長については、2003年頃の日経BPの記事に「秋草独裁体制」と評され、業績不振のインタビューで、「働かない社員に責任がある」といった趣旨の発言をされたことで一時期物議をかもしたことを思い出しました。

確かこの時期くらいに、「内側から見た富士通『成果主義』の崩壊」という暴露本みたいのが出版されましたね。

したがって、秋草氏の名前が出ていたのを見て、日経BPの記事が当時指摘した体制が維持され、未だに影響力を保持し続けているのかなと感じましたが、実際のところどうなのでしょうか。

いずれにしても、大企業の不祥事としては非常にお粗末な感じがします。

富士通の取締役等の役員を見たところ、元裁判官で刑事事件で特に有名な方や大手法律事務所の弁護士の方が監査役についているのですから、「どうしてこういう事態になったのかな?」という気がしてなりません。

そのほか有名な方々が社外取締役として名前を連ねています。

もっとも、取締役、監査役になるということは、忠実義務(会社法355条)、善管注意義務(民法622条、会社法330条),がありますから、当然この問題が大きくなり、会社に損害が発生(今日はこの騒動を受け株価が下がったようですね)したり、第三者への損害が発生すれば、任務懈怠責任(会社法423条1項および会社法429条1項)が追及されるおそれがあるわけです。

今後の推移が気になります。なお、この問題については、週刊ダイヤモンド誌の電子版が非常に詳細な記事を書いているので、お勧めです。

ところで、面白いと思ったのが、今回の騒動の法的問題です。

おそらく訴訟に発展すると思うのですが、この場合、辞任させられたと主張する野副氏とその代理人は、どういう訴訟形態で、どういう主張を構成するかというのは、基本的な法的知識から構成される問題として、興味深く感じます。

そこで、今日はこの問題につき、法的観点から、私見を発信してみようと思います。

1.考えられる訴訟形態

あくまで、報道されている限りの情報での私見ですが、辞任の取消を求めているという話ですから、訴訟になる場合は、おそらく、「株式総会の選任決議および取締役任用契約(委任契約)に基づく取締役としての権利を有する地位」を訴訟物(審判の対象)として、取締役の地位確認請求訴訟を提起することが考えられます。

つまり、「私は現在も、株式会社富士通の取締役なので、その権利を有する地位の確認を求める」という請求です。

確認訴訟というのは、原則として、「現在の権利・法律関係」について確認を求める必要があります。

単に「辞任の取消の確認」とか、「解任の無効確認」とか、「辞任の無効確認」などと構成すると、訴えの利益(確認の利益)を欠くとして、不適法となるため、現在の権利法律関係に引きなおす必要があるわけです。

そこで、上記のような確認請求の訴訟形態をとるわけです。

なお、通常は、会社に対する「退任登記の抹消登記手続請求」、さらには、野副氏の代わりに取締役に選任された者及び会社に対する「取締役の地位不存在確認請求」なども併合提起することが多いでしょう。

もっとも、後者の訴えについては、会社のみを被告とすれば、判決の対世効(何人の間でも合一確定すべき場合に認められる効力)があり、代わりに取締役に選任された者にもその効力が及ぶので、会社以外を被告としたかかる請求の部分については不適法却下されると思います。

2.請求原因

では、原告がかかる請求をする上で、どういう請求原因を主張するのでしょうか。

請求原因とは、審判の対象として設定した上記訴訟物たる権利法律関係が認められるために最小限必要な事実を言います。

つまり、ここでは、野副氏が現在も富士通の取締役たる地位を有することが認めれられるために、訴状による請求の段階で、最小限主張立証を尽くす必要がある事実は何かが問題となります。

確認訴訟に限定して、以下検討してみます。

取締役としての地位は、①株主総会における選任決議(会社法329条1項)たる申込と②会社と被選任者者との間の任用契約の締結(被選任者の承諾)により発生すると考えられています(商事関係訴訟p99。最判平成元年9月19日判時1354号149頁)。

したがって、請求原因としては、上記①②及び、確認訴訟であることから、③確認の利益を基礎づける事由として、「被告たる会社が取締役たる地位を否定しているという事実」を主張することになります。具体的には、退任登記がなされた事実等を挙げることになります。

3.抗弁以下

報道により伝えられているところによれば、野副氏の代理人は辞任の意思表示につき詐欺取消等の民法上の一般規定に基づく主張を考えているようです。

そうしますと、抗弁以下の攻撃防御は以下のようになるでしょう。

まず、原告の請求に対し、被告会社は、辞任の意思表示があったことを抗弁として主張します。

これに対し、原告が、再抗弁として、辞任の意思表示の錯誤無効(民法95条)もしくは詐欺取消(民法96条1項)を主張して争うことになるでしょう。

辞任の意思表示の錯誤無効の抗弁については、動機につき錯誤があったという話になるでしょうから、動機が表示されていたことが必要となります。

つまり、野副氏が主張している、「他の役員から反社会的勢力との付き合い等により辞任を迫られ、会社に迷惑をかけると思って辞任した」等々の事実は辞任の動機の問題ですから、かかる動機に錯誤があり、これを辞任の意思表示をする際に明示的に示していたことが必要となるわけです。

4.訴訟になった場合の帰趨

再抗弁の立証が成功すれば、原告たる野副氏は未だ取締役ということになります。併合提起した退任登記の抹消登記手続請求も認容されるでしょうし、会社に対する野副氏の代わりに選任された者の取締役の地位不存在確認も認容されるでしょう。

なぜなら、地裁の裁判例で、本件に似た事案として、東京地裁判決平成17年7月13日(平成15年(ワ)第24124号)があります。

この事例は学校法人の理事の地位をめぐり、他の理事が横領の疑惑をかけ、刑事訴追されるなどの嘘をつき、辞任を迫った上で、原告がマスコミ沙汰になれば、学校法人に迷惑がかかるし、生活が保障される代わりに辞任しようと思い、それを明示した上で辞任の意思表示をしたところ、かかる事実は実際にはなく、辞任の意思表示の錯誤無効と詐欺取消を主張して、地位の確認をした事案です。

この事件で、東京地裁は、「原告は,刑事処分が間違いないということであるならば、学園に迷惑が掛かってしまうし、辞めても生活保障・身分保障があると誤信して、本件辞任をしたものであり、また、辞任を表明するに当たり、理事会に対し、生活保障・身分保障を求めることを表示しているから、本件辞任には動機の錯誤があって無効であるといえる。」と判示しています。

この事案は、富士通の問題をめぐる今回の事案と非常に似通っていますから、動機の錯誤および詐欺取消が認められるかのポイントは、①野副氏と付き合いがあった人物が本当に社会的にふさわしくないという人物であったのか、②辞任しなければ上場廃止になるなどを告げたこと及びそうした事実が本当にあったのか、③野副氏が辞任の意思表示の際に、具体的に辞める動機の部分を明示した上で意思表示したのかなどになるのではないでしょうか。

大企業のコンプライアンスの基本的な問題だけに、今後の推移が気になります。

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明らかになった富士通の野副前社長退任劇

3月8日8時28分配信 ITmedia エンタープライズ

ついに不可解だった富士通の前社長退任劇の真相が明らかになった。発端は、2009年9月に社長を辞任した野副州旦氏が、同社に自らの社長辞任の取り消しを求める文書を提出したことが3月5日、表面化したからだ。

 富士通は野副氏の辞任を「病気療養のため」と説明していたが、野副氏は辞任を迫られたことによる事実上の解任で、説明は事実と異なると主張している。野副氏側の弁護士によると、2月26日に文書を提出。臨時取締役会を開いて野副氏本人による釈明の場を設けることと、外部の人間による調査委員会を設け、辞任に至る経緯を検証することを求めたという。

 これに対し、富士通は3月6日に開いた臨時取締役会で要求を拒否する方針を決め、「信頼関係が失われた」として同日付で野副氏の相談役職も解任。社長辞任取り消し要求をめぐる報道についてコメントを発表した。

 それによると、2009年2月ごろ、野副氏と長年にわたり親交の深い人物が代表取締役を務める企業が、野副氏が推進していたプロジェクトの一部に関与。しかし、当該企業グループについては好ましくない風評があったため、調査したところ、富士通の理念・行動規範である「FUJITSU Way」の観点からも、同社が取り引き等の関係を持つことはふさわしくないと判断。その旨を野副氏に対して取締役および監査役が注意したところ、野副氏はそれを認め、当該企業を同社のプロジェクトから外すと明言したが、その後も当該企業との関係を継続していることが判明したという。

 そこで、富士通の取締役および監査役は、事前に取締役会メンバーの過半数の同意を得た上で、2009年9月25日に野副氏の事情聴取と弁明の機会を設け、野副氏と当該企業との関係が調査結果通りであれば代表取締役社長を解職すること、ただし野副氏に辞任の意向があれば受け入れることとし、野副氏と面談を行った。

 その際、野副氏は、当該企業の親会社をプロジェクトに関与させてはならないと認識し、現にそう指示していたものの、親交のある人物については親会社の代表者とつながっていることを認識しながらも個人としてプロジェクトに関与させていたと弁明。しかしながら、野副氏も代表取締役社長という立場としてそうした認識は通用しないことを理解し、辞任を選択したという。

●食い違う野副氏側と富士通の言い分

 こうした経緯から、富士通は「当該企業が当社の事業に関与すること、または当社の代表取締役社長という立場にある者が当該企業と関係することがFUJITSU Wayの観点からふさわしくないというのは、あくまで当社の事業遂行上の、また、当社取締役会による代表取締役社長選定上の判断である」としている。

 さらに「野副氏が何らかの違法行為や不正行為を行っていたというわけではなく、あくまで野副氏がとられてきた行動が、当社の代表取締役社長という立場から見てどうであったか。また、仮に当該企業の風評ないし評価が真実であった場合、当社にどのようなリスクを発生させるかという観点から、当社代表取締役社長という地位にある者はいかに対処すべきかという経営問題だ」と主張。

 そうした観点から「当社代表取締役社長は万が一のリスクが重大であればあるほど、一片の疑いも持たれない行動を取るべきというのが当社の判断であり、野副氏もこれを十分に理解した結果、辞任されたものと理解している」とし、「事情を総合的に勘案して、当時、野副氏自身が体調を崩していた事実もあったことから、野副氏本人合意の上、辞任理由を病気として発表した」と結んでいる。

 この富士通のコメントに対し、野副氏側の弁護士は具体的なポイントを指摘しながら、真っ向から反論している。

 「調査結果など存在しない。野副氏は調査結果など見たことも聞いたこともない。もしあるなら社長の野副氏に最初に見せるべきだ」「事前に取締役会メンバーの過半数の同意を得た上で、とあるが、これは何の法的効力もない」「弁明の機会を設け、とあるが、解職を討議するのは取締役会であり、そこで弁明の機会を与えなければ何の意味もない」「違法行為や不正行為を行っていないなら、何が解職理由なのか」「辞任しなければ上場廃止になる、辞任しなければ解任すると言われたから辞任を受諾した。解任理由がなければ辞任などしない」「野副氏の弁明に関する箇所は全くの虚構だ」「体調を崩していた、とあるが、病気はない。診断書も存在しない」などがその内容である。

 また、相談役職の解任についても「理由が不明」「本人に告知弁明の機会を与えていない」「野副氏は取締役会での弁明の機会を求めていたのに、(3月6日の臨時取締役会に)なぜ呼ばないのか」と反論している。

 野副氏側の訴えで真相が明らかになった2009年9月の突然の社長退任劇。今後も双方の代理人を通じてやりとりが続けられることになりそうだ。さらに富士通にとっては、情報開示のあり方も問われる可能性がある。

 今回の騒動は、富士通にとってイメージダウンになることは免れないだろう。ただ、富士通のこともよく知る業界の重鎮がこんなふうに語っていた。

 「この際、何があったのかをすべて明らかにしたほうが、不可解な社長退任劇をそのままにしておくより絶対にいい。社員も取引先もそのほうが、あらためて富士通ブランドの信頼回復を真剣に考えるようになる」

 富士通にはこれまでにも増して、ステークホルダーへの丁寧な説明を期待したい。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100308-00000001-zdn_ep-sci

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