双方の意見が食い違う場合の思考方法(スカイマーク事例を題材に)
コメント欄だけでなく、このスカイマークの問題に関し、読者のみなさんと考えを共有した方が良いと思ったので、別途構成しなおし、記事にしておきます。
①意見が対立しているのだから、機長が説明責任を尽くすべきである、②マスコミの報道を鵜呑みにするのはどうかという趣旨の意見が寄せられました。
確かに、マスコミの報道を一方的に信じないという姿勢は正しいと思います。
しかし、パイロットに既得権益があるからパイロットが会見すべきというのは論理が違っていると思います。
では、ある事件において、双方の意見が食い違う場合どうのように私たちは思考すればよいのでしょうか。
そのヒントは、当事者の争いを国家の司法的作用により終局的に解決することが求められる裁判にあると私は考えます。
裁判では、主張立証責任がいずれの当事者にあるのかということを前提に事案を整理して争点を明確化し、事実の有無を判断します。
ある(主要)事実について、主張立証責任を負う当事者が、それを尽くさず、真偽不明の状態(ノン・リケット)に陥った場合は、その事実を要件とする自己の有利な法律効果が認められないという不利益を負うことになります。
これを立証責任と訴訟法上いうわけです。
これをヒントに、今回の問題を考えてみるとどうなるでしょうか。
まず、今回のスカイマークの事件では、法は機長に運航上の安全判断に関する最終的な判断権者としての権限と責任を与えています。
その判断を機長が権限の行使として行っており、それを覆すしたり、それに従わない行為は航空法上の運航規定に違反することになります。
そうであるとすれば、まず、国交省は「スカイマーク社が機長の安全判断を覆したり、従わなかった」ことに対する立証責任を負います。
この点、国交省は調査を行った上で、厳重注意という行政指導に至っており、この部分の立証は尽くされているといえます。
他方、スカイマーク社は、この事実に対する行政指導に不服であり、「機長の判断を覆したり従わなかったこと」があくまで適法で正しいものであったと主張するのであれば、たとえば、機長の判断が「権限の濫用に当たる」など正当化事由の立証責任を負うことになるはずです。
そして、機長は与えられた法律上の権限に従って安全判断したのですから、それを覆したことに対する正当化事由は会社側の立証責任であることを前提に、機長ないし国交省は、反証(ノン・リケット、真偽不明の状態に追い込むということ)すれば足ると考えるべきでしょう。
このように、当事者の主張が食い違う場合には、どちらに主張立証責任があるのだろうかと考え、立証責任を負う方が十分な説明を尽くして、「当該事実があるといえるのか」と思考することが、私は訴訟以外の場面においても、物事の筋道を考える上で有用だと考えます。
そもそも、この問題に不服があるのであれば、スカイマーク社は行政指導でしかない厳重注意に対し、反論するなりすべきです。行政指導は従う義務はありません。単なる事実行為です。
にもかかわらず、スカイマークの対応は、お上の前だから、しおらしくしていれば良いみたいな発想で、自分たちの説明責任すら尽くさず、嵐が過ぎるのをやり過ごそうという姿勢が見え見えです。
そういった企業の不誠実な姿勢を看過することはできません。
日本のパイロットは、規制に守られた既得権益享受者の代表のような職業です。このような職業の人は昔の職人同様、時としてささいな「聞き分けのない子供」のような態度をとることがありますが、今回の事がそのような例ではないと言う事はできるでしょうか?
この反論部分についても、単なる憶測でしかありません。
もし、そういう事実があるとするならば、繰り返しになりますが、それはスカイマーク社が立証すべき事柄で、スカイマークが説明責任を尽くして、「そういう事実があったから、介入したのは妥当である」という主張をすべきです。
しかし、スカイマークがそのようなことをする兆しすらありません。これは、スカイマーク社のHPに掲載されている今回の事件へのプレスリリースを見れば明らかです。利用者に対して、何も説明していません。
したがって、そのような事情を憶測に基づき、仮定して、スカイマークの行為を許容することはできません。
日本人はとかく「お上」に叱責された、というだけで叱責の対象になった個人や集団を「悪」と思考停止してしまう傾向がありますが、そもそもその「お上」こそ、厳重な監視をしていかなければならない存在であることに気づく必要があります。
少なくとも私はこういう発想はしていません。お上が正しいなんてことはありません。
スカイマークが自分たちの判断が正しいと信じるならば、それをスカイマーク社が立証すべきなのです。そういうことを一切する気配がなく、行政指導を受け入れている以上、指摘された事実が存在すると考えることは、お上が正しいという思考とは必ずしも一致するものではないはずです。
私は、一部の方が主張するような、むやみやたらの陰謀論や、この問題について、新規参入企業だから問題視されているなどの無理のある発想をすることには賛同しません。
機長をはじめとしたパイロットの待遇の良さ、労組の強さは知っていますが、パイロットの判断がいかにおかしいかという権限濫用の立証はおろか十分な説明すら会社側がせず、何ら会社の行為が正当化できる理由が明らかになっていない以上、法に反して会社側が安全判断を覆したと考えるのが妥当でしょう。
主張が食い違う事案において、どっちの言い分を信じるべきかという問題について、1つの答えは、主張立証責任の配分を考えてみることが良いのではないでしょうか。
つまり、主張立証責任をどちらが負担すべきかというバックボーンを前提に、その主張立証責任が尽くされたかどうかで判断することが、正しい判断につながると思います。
繰り返しになりますが、本件で言えば、安全判断の権限は機長にあるのですから、それに従わなかったという事実の立証は、国交省が負いますが、判断を覆したことを正当化できる事由としての権限濫用等の評価根拠事実をスカイマーク社が立証すべきです(つまり、国交省は機長の安全判断への介入という処分事由該当事実につき立証責任があることを前提に、違法性阻却事由としてのスカイマークの立証責任という発想です)。
にもかからわず、スカイマークが説明をほとんどしていないというのは、自分たちの立証責任を放棄しているわけですから、機長の判断および国交省の厳重注意は正しかったということになります。スカイマーク側の抗弁の立証がなされていないということです。
もっとも、国交省は行政指導足る厳重注意ではなく「処分」すべきだったという点は別途議論の対象になることは、昨日、お話しした通りです。
なお、この点については、航空評論家の秀島一生先生も「軽すぎるくらい」との御指摘をブログ記事にてなさっています(同時に、行政指導をしただけまだ評価に値すると言っておられます)。
さて、今回は立証責任というお話をしました。
民事訴訟というのは眠訴といわれるくらいややこしい法律でもあります。私は読んだことが無いのですが、もしかすると、一般の方が立証責任などの概念を理解するには以下の文庫本が有益かもしれません。評判が良いようです。
法律の勉強をしたことがある人で、主張立証責任につき詳しく勉強したいという方へは、以下の本が非常にお勧めです。要件事実の思考方法が非常に良く解ると思います。
ただ、この本は一般の方向けの本ではありませんから、法律職ではない方や法学の勉強をしている方以外の方が読まれても理解は難しいと思います。
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