日本社会が衰退する理由
法律の話の続きをしないといけないのですが、最近忙しく、法律以外のことを考えたいので、もう1回だけブレイクです。
公認会計士の就職難に関連し、大塚耕平金融担当副大臣が「今のペースで(会計士の)人数が増えていいのかも検討課題」と発言しました。
おかしな話です。
公認会計士の試験を通った人が就職難だから、合格者を減らす。これでは、完全に中世ヨーロッパ時代のギルドであり、それを国が主導しようというのですから、合法的なカルテルです。
日本がデフレだと騒がれていますが、結局、日本は、自由競争をすべきところができていないこと、および、切磋琢磨できる環境作りのための緩やかな競争原理の導入ができていなこと、が最大の問題なのではないでしょうか。
公認会計士など資格により職業選択の自由(憲法22条1項)を制約する以上、資格試験は絶対評価であるべきです。
つまり、その資格を与えるに足る知識を有する者は合格させ、知識がない者は落とす。これが本来の資格制度のはず。
にもかかわらず、合格者が増えて就職難だから、合格者数を制限しましょうというのは、本末転倒です。就職できるかどうか、就職先が安定的であるかどうかは、いくら資格保有者であっても、本人の努力次第ではないでしょうか。
もちろん、現行の公認会計士制度では、実務経験が必要になるわけですから、試験に合格しても公認会計士になれないというのは問題です。
必要な知識は試験で十分に問うてるはずですから、実務経験の要件を削除するとか、別途実務経験における知識を2年後に問う試験を設けるなどの措置は考えられます。
しかし、大塚副大臣の発言は、既存の資格保有者の既得権益保護という考えが根底にあるように思えてなりません。
法曹も、医者も、建築士もそうですが、資格試験を設ける以上、その運営は必要な知識の有無により判定されるべきです。既存の資格保有者を保護するために、新規参入を妨げるという発想の制度運営をすれば、日本の国力は衰えます。
アメリカがリーマンショックなどを経験してもなお活力を取り戻しつつあり、少なくとも日本より元気な社会なのは、機会的平等の理念が徹底されているからです。
誰でも、努力すれば、成功できるという社会認識があり、それが担保される仕組みがあるからです。
アメリカでは、あらゆる資格試験は絶対評価で人数制限なんて御法度、その後の就職の問題は自己責任。
これが当り前の姿なのですが、日本はどうしても、資格保有者に特権を与えたがりますし、既存の資格保有者も特権を欲しがります。
こうした社会が活力を取り戻せるでしょうか。経済大国第1位と第2位の日本とアメリカの差はそこにあります。
アメリカンドリームがあり、ジャパニーズドリームがないのは、実力のある者を評価する社会的共通認識がアメリカにある一方、日本は実力のない者でも、既得権益の名の下に評価される途があるためです。
日本がバブル崩壊以降、経済が沈んでいるのは、日本社会に実力を評価する社会認識が欠けているからです。
社内ポリティックス、稟議制度などにより、無駄な力が評価され、責任の所在を不明確にすることにばかり力を注ぎ、実力ある人間が育っても海外に流出してしまいます。現に私の友人で、私が有能だと思う人々はほとんど外資系の企業に採用(転職を含め)され、海外で生活を楽しみながら活躍している人が多いです。
弁護士においても就職難を理由として、人数制限を求める既得権益保護主義者がいます。
しかし、資格保有者であっても、その他の社員と同じ待遇であれば、採用してくれる企業は沢山あるはずです。企業に採用してもらえないのは、「俺は、資格保有者だ」というおごりがあるからです。
アメリカの法曹資格者であれば、「人数制限しろ」なんていう発想は持ちません。なぜなら、それはアメリカ社会の根本的価値である「Equality of Opportunity」の否定になるからです。
そして、アメリカの法曹資格者は、就職難で一流事務所に行けなければ、一般企業に就職しつつ、次のチャンスを狙います。非常にハングリー精神が旺盛で、フロンティア精神そのものではないでしょうか。マインドが違うわけです。
いつもはエンターテイメントの話題として紹介するスーザン・ボイル(Susan Boyle)さんの人気も、このアメリカ人のマインドに関連しています。
地元のイギリスだけでなく、番組の放送されていない、特にアメリカで異常な人気ぶりなのは、彼女に素晴らしい歌声という実力があるにもかかわらず、評価されずに48年間も普通の人して、日が当らない存在だったからこそ、衝撃的に受け止められ、彼女は評価に値すると支持する人が多いわけです。
アメリカのファンにとっては、彼女の実力ある歌声が正当に評価され有名になることは、アメリカンドリームそのもので、それが熱烈な支持につながっていると言えるでしょう。
弱者保護は大切です。民主党政権が生活者、消費者重視というスローガンには共感できました。
しかし、弱者保護のように見せかけた既得権益保護、ひいては、一旦、特権的な地位を得れば、努力をしなくても生きていける社会なんていうのは、切磋琢磨する土壌を奪います。百害あって一利ないのではないでしょうか。
競争原理はある程度必要です。しかし、過度な市場主義は逆にモチベーションを低下させます。
そこで、8月の選挙で、有権者は、民主党に対し、①既得権益への切り込みと、②弱者保護政策を両輪でやってもらいたいと期待したのではないでしょうか。
既得権益保護のための政策なんて、国民の総意は望んでいません。
民主党も、政権を取ったとたんに、自民党と同じ既得権益保護政党になるのでしたら、有権者は4年後、民主党や自民党に代わる政党に政権を託したいと望むかもしれません(問題はそうした政党があるかどうかですが・・・)。
さて、日本とアメリカの違いとして、マインドの違いと言いました、これは、フロンティア精神の有無です。以下の本は、先日W杯の予選が決まったということもあって、ちょうど良いサッカーというトピックを通じて、日本人選手と海外選手の精神論の違いを説明しています。
また別の機会に話しますが、新渡戸稲造の武士道は結構アメリカ人に好まれて読まれます。この武士道はフロンティア精神に近いと評したアメリカ人の友人もいました。もしかすると、日本の既得権益にしがみつく姿は、武士道精神の失われた姿なのかもしれません。
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公認会計士、試験・資格制度見直し検討 増えすぎ就職難
2009年12月8日20時33分
金融庁は8日、公認会計士試験制度の見直しに向けた検討を始めると発表した。これまで合格者を増やしてきたが、大量合格の反動と景気低迷で、今年は合格しても就職先のない浪人生が「700人弱ぐらいでる」(日本公認会計士協会)見通しになったためだ。
金融担当の大塚耕平副大臣が座長となり、金融、会計業界の代表者や学識経験者らで検討会を設置。合格者の一般企業への就職を後押しする環境づくりや、資格取得までの要件の見直しを議論。大塚氏は「今のペースで(会計士の)人数が増えていいのかも検討課題」と話した。来年半ばごろまでに、法改正の必要性の有無も含めて結論を出すという。
公認会計士は2006年から試験制度が簡略化され、年ごとの合格者は1千人台から3千~4千人に増えた。今年の合格者は2229人だが、一般企業への採用は広がらず、景気低迷で監査法人も採用者数を減らしたため、浪人生が大量に生まれる見通しだ。いまの制度では、試験に合格しても実務経験を積まないと会計士の資格は取れない。
http://www.asahi.com/national/update/1208/TKY200912080342.html
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Comments
全くその通りですね。
感激しました。
就職氷河期なるものも本質は同じ。
持てる者を守るために持たざる者を排除するという。
競争の結果、格差が拡大したなんて大嘘。
市場原理が働いていないからこそ、様々な問題が生じているんですよね。
「非正規の職種を増やしたのは、高年齢の正規雇用を守るため」http://morningmanga.com/katsuma/090402.html
Posted by: Psuke | 12/10/2009 11:33 am
同様の理由で、司法試験も合格者数の調整をしていませんでしたっけ?
私の思い違いかもしれませんけど…
Posted by: mono | 12/11/2009 12:31 pm
>Psukeさん
はじめまして。コメント有難うございます。
共感いただけて嬉しく思います。
既得権益を保護するために新規参入を排除するという思考は、池に入る新しい水をせき止めてしまい澱んだ沼を作るのと同じくらい危険な発想だと思います。フロンティア精神、つまりは、武士道精神にそういった不公正な保護主義という発想はなかったのではないでしょうか。
ところで、非正規労働者に対する誤まった認識が世間でまかり通っていることにも危惧を感じます。
非正規労働者であれば、簡単に雇い止めができるという発想を持った"自称"識者が沢山おり、もっともらしいことを言っていますが、我が国の判例法理からすれば、間違った理解を頒布しているといえます。
判例法理に従えば、非正規労働者、期間労働者であっても、①実質的に正規労働者(期間の定めのない労働者)と変わらない場合や②更新への合理的期待が生じているような場合には、使用者の更新拒絶(雇い止め)の自由が制限されます。これは、雇い止めが労働者の生活に与える影響が、正規社員の場合と変わらないためです。
したがって、我が国の判例法理からすると、①②と評価できる場合は、解雇権濫用の規定(労働契約法16条)が類推適用され、雇い止めは違法無効となり、更新されたのと同じ法律関係が生じることになります。
このような判例法理があるにもかかわらず、多くの場合は泣き寝入りに追い込まれる場合が多いのは残念です。
訴訟の煩雑さに付け込んで、違法状態もみんなでやれば怖くないというのは本当に問題です。
また、メディアや"自称"識者が間違った理解を平然と広めるのは本当に問題ですね。
貴殿のリンクにある勝間和代さんという方の主張も、非正規労働者が簡単に更新拒絶できるという前提に基づいていますが、訴訟になっていないだけで、実際には社会全体が違法行為を見逃しているに過ぎません。
ちなみに、彼女を見ていると、どうも伊藤真先生を思い出してしまいます。
伊藤真先生といっても民訴法学者ではなく、伊藤塾の方です。彼のモットーも「やればできる。かならずできる。」だった気がします。
Posted by: ESQ | 12/12/2009 12:13 am
> monoさん
はじめまして。コメント有難うございます。
司法試験も形式上は絶対評価といっていますが、合格者に目標人数を設定している段階で、相対評価に陥っています。
また、今回の記事でも、過去の記事でも何度か指摘していますが、質の低下という大義名分の下に、ベテラン弁護士倫理の低下も含め、すべて、新規参入者を攻撃対象にして、合格者人数を減らそうという動きがあるのも事実です。
今回の記事で指摘したように、そういう既得権益を守るための合格者人数の制限というのが実質的理由であれば、百害あって一利ないですし、日本社会はより一層衰退するでしょう。
Posted by: ESQ | 12/12/2009 12:18 am
ここに書かれていることに、同意します。
私は今アメリカで暮らしていますが、日本発のニュースを見るたびに、日本社会の理不尽さのようなものを感じ、自分の母国の状況に、苛立ちを感じていました。
このブログには、その問題点が、とてもよく一つの文章にまとまっていて、自分の頭の中がすっきりしました。
ただし、アメリカの「Equality of Opportunity」を持ち出す上で、ここには書かれていないとても重要なことがあります。それは、「年齢差別の禁止」です。アメリカにもそういう差別が全くないとは言えないですが、履歴書に顔写真を載せないし、年齢や生年月日を書かない、面接でそういった情報を聞いてはいけない、履歴書のフォーマットが自由である、ということもあって、日本に比べると、年齢差別はかなり少なく緩やかであることは確かです。また、多くの人が仕事と学校を生涯にわたって入ったり出たりすることもあって、日本のような新卒至上主義もありません。
アメリカで、その資格のために学校に行き、資格を得た後で、相応のポジションにつけなかった場合でも、資格のメリットがゼロになることがあっても、マイナスになることはありません。
日本では、相応のポジションのつけない場合は、年をとっている分だけ、マイナスに評価されてしまうことが多いのだと思います。
年齢差別を残したまま、一部分だけアメリカの競争原理を導入してしまうと、チャレンジし、敗れたものを、奈落の底に突き落としてしまう社会に日本をしてしまうと私は思います。
実家が富豪であり、失敗したときのリスクを負える人のみが資格に向けてチャレンジができる社会になってしまう可能性を孕んでいます。
まずは、日本社会を健全化するためには、最低でも、米国並みの年齢差別禁止法を導入することが重要なのだと思います。履歴書も自由フォーマットにすべきです。そして、各人が新卒主義の不利益を被らないために、大学の授業料を年度毎に支払うシステムではなく、米国の大学のように授業料をクレジット毎に支払い、定職につくまでお金をかけずに大学に籍を置き続けられるシステムも必要かもしれません。
それが、「Equality of Opportunity」の環境を整えるためにまず初めにやらなければならないことだとおもいます。
筆者の方がおっしゃることは極めて正しいと私は思いますが、ここに私が書いたことの次にやるべきことだと思います。
日本の社会を健全に、衰退を防ぐためには、大手術が必要なようです。
Posted by: TOM | 12/29/2009 12:31 am