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11/16/2009

国会議員による事業仕分は国会法に抵触? ― 河上発言の意図を探る

先週に引き続き今回も、「バンキシャ!」の話題。

日曜日の日本テレビ系報道番組「バンキシャ!」内での河上和雄先生が以下のような御指摘を民主党による事業仕分についてされていた。

重大なことは、それは国会法っていう法律があって、これは事業仕分けはおそらく政府の行為としてやってるわけです。

政府の行為としてやってる場合に国会議員が入っているわけですから、本来は衆議院と参議院の両方の了解を得なきゃだめなんですよ。

やらないでいきなり国会議員が出てきてやっているわけですね。彼らは違法行為を犯してるわけです。

この御指摘を聞いても、おそらく一般の方はよくわからないだろう。既にツイッター上でつぶやいた時の反響が良かったので、ブログ上では、もう少し丁寧にこの問題を取り上げたい。

河上先生の発言の意図と一致しているという保証はできないが、番組内の発言を聞く限りにおいて理解しうる範囲で、河上先生の指摘された点を説明しようと思う。

国会法は、簡単に言うと、国会および各議院の運営方法について定めた法律である。

今回の事業仕分においては、事業仕分人として、大臣、副大臣、政務官ではない、国会議員の立場において、数名が派遣されている。

この点、河上先生は「両院の了解」と言っておられるので、国会法39条但書の部分を指して、国会法に抵触する行為であると指摘していると考えられ、39条の兼職禁止規定の問題として捉えられているのであろう。

しかし、国会法39条本文による議員の兼職禁止規定を問題とする前提として、国会議員の事業仕分人の法的地位が、行政各部の委員等であるということが必要であるが、この仕分人の法的地位が政府委員なのか否かが不明であるため、以下のような反論が考えうる。

つまり、国会法39条の問題として捉えたときに、「国会議員の事業仕分人は政府の委員ではなく、国会議員の地位に基づいて意見を聞いているだけで、兼職規定に反しない」との反論である。

もっとも、この反論を前提としても、国会議員の事業仕分人については、国会議員を国政に関する調査として派遣しているということになるため、この場合も、国会法103条にいう、「各議院が必要と認めた」という手続きを踏まなければいけないことになる。

国会法第12章の「議院と国民及び官庁との関係」という章において、103条という条文がある。

103条 各議院は、議案そのほかの審査若しくは国政に関する調査のために又は議院において必要があると認めた場合に、議院を派遣することができる。

確かに、民主党の党幹事長である小沢一郎議員すら、当初は事業仕分について把握しておらず、人事の相談もなかったという趣旨の発言をしていたことからすれば、衆参両院において、その所属議員を派遣することにつき、何らかの議決なりの一定の手続きが踏まれたという話は聞かないので、違法状態であるという指摘は間違っていないように思われる。

しかしながら、注意しておかなければならないのは、国会法というのは特殊な法であるということである。

憲法はそもそも国会法を予定して作られておらず(実際には憲法とともに施行されたが、憲法規定にその存在を前提とする規定はない)、憲法58条2項において、「両議院は各々その懐疑その他の手段及び内部の規律に関する規則を定め、又、秩序をみだした議院を懲罰することができる」と規定し、各議院に自律権を認めている。

そうすると、議院内部の議事等の手続きについては、各議院の自律権に服することが前提であり、司法審査に当たっては、政治部門である両院の自主性を尊重すべきという要請が働く。

そこで、国会法など議院の自律に関わる法規に違反する行為があるとしても、それが直ちに裁判所の審査に服するとは限らないという考え方が導かれる。

この点、最判昭和37年3月7日(警察法改正無効事件)において、最高裁は、両院の自主性の尊重を理由として、裁判所は議事手続きに関する事実を審査し、有効無効を判断すべきではないと判示している。

これらのことを前提に考えると、国会法も憲法の各議院の自律権を前提に作られて法案であることからすれば、各議院の自律権の尊重の要請は働く(この話とは直接は関係ないが、国会法と議院規則のどちらが優越するかという論点がある)。

そうすると、たとえ、民主党の事業仕分行為に河上和雄先生が御指摘されたような違法状態が国会法の規定との関係であるとしても、事業仕分行為について、裁判所が審査し、違法があるとして無効になるという話には直結しないと考えられる。

この点は誤解がないようにしておくべきであろう。

いずれにしても、国会法の定めた手続きを踏まずしてやっているとすれば、やはり、パフォーマンスが先行し、結論ありきの事業仕分になっているのではないかという危惧が高まることは避けがたい。

もちろん、公開して予算の審理を行うことは非常に重要だとは思うが、十分な手続きを図った上でやらなければ、その正当性が揺らいでしまう

初めての本格的な政権交代だからこそ、そうした点には細心の注意を図るべきだったのではなかろうか。

さて、今日の話題に関連し、DVD1つと本1冊を紹介します。

事業仕分の方法を見ていますと、蓮舫参議院議員や枝野衆院議員の財務省からの情報を疑わず、結論ありきの検証スタイルを見ていると、どうもこの「十二人の怒れる男」に出てくる「有罪と決めつけ、さっさと帰ろうとする」陪審員たちに見えて仕方ありません。事業仕分人の中に一人でも、陪審員8号(ヘンリー・フォンダ)のような人物がいればと思うのですが・・・。

政治を語る上で憲法を知っておくのは良いことです。一般向けの本としては、渋谷先生の書かれたこの本がオーソドックスでよいと思います(この本の中身をじっくり読んだことがないですが、渋谷先生の他の著作物からすると、基本的には独自説を通説がごとく記載する方ではないですし、憲法学者としても実績がある方で、その方が一般向けに書いた文庫本ですから、読みやすいと思います)。

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