日本はイランの不正選挙抗議デモに対する弾圧を強く非難すべき
イランで痛ましい事件が起こっている。
日本ではほとんど軽くしか扱われないイランの民主化デモと弾圧のニュースについて今日は触れてみたい。
イラン 相次ぐ記者の拘束 ネットが伝える「真実」
6月23日8時1分配信 産経新聞大統領選の結果をめぐる改革派の抗議行動が続くイランで、ジャーナリストの拘束が相次いでいる。当局は外国人記者の取材活動を制限しており、デモ隊と当局側の衝突の様子はインターネットの動画サイトなどを通じて知るほかない。米ネット各社は22日までに、ペルシャ語サービスの追加など“支援”の姿勢を打ち出し始めた。
フランス通信(AFP)によると、パリに本部を置く国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団(RSF)」は21日、イランで大統領選の前後に拘束されたジャーナリストが計33人に達したと発表。「イラン・イスラム共和国は今や、ジャーナリストにとって、中国と並ぶ世界最大の監獄になった」などとする声明を出し、拘束者の即時解放を要求した。
イラン外務省報道官は20日、米国の対外ラジオ短波放送「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」と英BBC放送を「米英政府の代弁者となり、イラン民族の分裂をねらい動乱を扇動している」と名指しし、BBCのテヘラン常駐特派員に国外退去を命じた。米誌ニューズウィークの男性記者は容疑不明のまま拘束されているという。
外国メディアの取材が制限される中、国際社会の支持を求める改革派支持者らはインターネットを駆使して騒乱の現状を発信している。米CNNによると、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)大手「ツイッター」上に「ネダ」と呼ばれる16歳の少女が民兵の銃撃で死亡したとされる情報が公開された。動画投稿サイト「ユーチューブ」には、この少女とみられる人物が路上に倒れ、数人の男性に介抱される様子が流された。
米インターネット検索大手グーグルはペルシャ語の翻訳サービスを開始。傘下のユーチューブでは通常は削除対象となる過激な暴力描写が含まれる映像も、イランの抗議行動関連に限って規制を解いている。(川越一)
はじめて、断っておくべきと思うのだが、私は欧米政治には詳しい自負はあるが、中東問題はどちらかというと欧米的視点から考察する傾向強いかもしれないので、読者もその点は理解して読んでいただきたい。
さて、このニュースを読んで、イラン情勢についての私見を述べようと思ったため、Youtubeで犠牲者の動画を確認したが、未成年者等に不適切な画像があるので、ブログにはリンク等は紹介しない。
私はまさにイランにおいて歴史が変わる大事件が起こっていると感じた。つまり、中国で起こった天安門事件と同じ状況が今イランで行われているように思う。
デモの強制鎮圧を進める権力とそれを報じようとする海外メディア、それに対するさらなる圧力。唯一違うのは、当時とはインターネットという改革派の学生にとって真実を世界に広める最大の武器があることだろう。
イランの国内の状況は、イスラエルや欧米の政治と切っても切れない関係にある。中東関係については、詳しくは、昨年の最後のニュース評論という記事で、イスラエル情勢の解説の中で、私の歴史理解に基づく解説をしているので、そちらを参照してほしい。
当初、オバマ米国大統領のこの問題に対する姿勢が非常に弱かったので、私は民主化運動が早期に鎮圧され、国際社会からの支援をイランの改革派の学生たちが得られないのではないかと懸念していたが、すでに欧米では、イラン政府に対し厳しい対応が出始めている。
中東問題に敏感なイギリス政府は、自国の在イラン外交官を引き上げさらには、英国内のイラン外交官の追放(ペルソナ・ノン・グラータ)に踏み切ったようである。
イギリスのテレグラフ紙の電子版も伝えているのだが、オバマ大統領は、当初、選挙での不正が叫ばれているにもかかわらず、イラン政府を強く非難することに慎重であった。これには、アメリカが内政干渉をしているというイラン政府の批判をかわす狙いがあったようである。
しかし、一転して、方針転換をし、現在強く非難し始めた背景には、Youtube上で上記動画により、国際社会に武力鎮圧の現実が発信されたことに加え、共和党や評論家から、政府により人が殺されているにもかかわらず、イラク政府を非難する姿勢が弱すぎるとの批判が噴出したためのようである。
強く非難しているのは、アメリカやイギリスだけではない。
ロイター通信電子版によれば、ドイツのメンケル首相は20~21日の週末にかけて、イラン政府に対し投票の再集計を要求し、それに対しイラン政府が内政干渉と強く反発したものの、22日(月)には、ドイツ政府として、「これは表現の自由、思想良心・宗教の自由、および普通投票、秘密投票に参加するという基本的な人権の問題であり、国際法の法令遵守の問題である」との声明を出し、イラン政府を強く非難していた。
さらに、アメリカ、ニュージャージー州のメディアは、ドイツのメンケル首相は、「人権と公民権は切っても切り離せない関係にあります。だからこそ、ドイツは人民の側、言論の自由を求め平和的に集まり、平和的抗議活動をしていた人々の側に立つのです。したがって、私はイラク政府首脳に要求します。人々が求める集会を許可し、抗議活動に参加した人への暴力を停止し、逮捕した人を解放しなさい。」と強い非難声明を発表していると報じている。
ロイター通信電子版は、デンマーク政府も22日(月)にイラン大使を国外追放し、EUの議長国であるチェコは、EU全体で、今回の弾圧行為に対する非難として、加盟国に駐在するイラン大使を国外追放することへの検討に入ったことを伝えている。
さらに、中国の新華社通信電子版は、フランス政府が23日(火)に、二度目のイラン外交官国外追放を行ったことを伝えている。フランスの外務大臣のコメントとして、「多くの死者を出したイラン政府による残酷な抗議活動弾圧に対する批難を再び強く主張する。内政干渉だというイラン政府の反発は全くもって受け入れらないない」との強い非難声明を出している。
世界中の民主主義を基本とする政府を有する国々が、これだけの関心を持って強い非難声明を出し、かつ、イラン外交官の国外追放という行動に歩調を合わせているのは、国際法で守られるべきはずであるイラン人の人権と民主主義が著しく弾圧されているためである。
仮にも常任理事国入りを目指すという我が国の政府はこの問題についてどう考えているのだろうか。
私が知る限り、政府の関係者は、自民党の総裁選のために「宮崎、宮崎と言っている知事」に馬鹿げた要請をしたりと自分たちの選挙のことばかりに奔走しているようで、全くと言っていいほどこの問題に対する関心は低すぎる。
さらに、私が唖然としたのは、外務省のホームページに掲載されている中曽根外務大臣のコメントである。
(外務大臣)イランの大統領選挙後の情勢について申し上げたいと思いますが、先週も申し上げましたが、我が国は6月12日に行われましたイラン・イスラム共和国大統領選挙の結果を巡るこの対立というものは、イラン政府とイラン国民の英知と努力によって解決されるべきものと考えており、その取り組みの動向を注視して参りました。その中で抗議行動が展開されている中、死傷者が出ていることを強く懸念しています。我が国はこのような犠牲者が出る事態は回避されなくてはならず、平和的解決を強く求めるところです。また我が国はイランの制度においてこの事態がどのような形で適正に処理されるのか、引き続き多大な関心を持って事態を注視して参ります。その過程で双方の意見や言論が適切に尊重されることが重要だと考えています。
(問)死傷者が出たことを懸念ということでしたが、イラン政府に対して何らかの働きかけを日本政府はするお考えはあるのでしょうか。
(外務大臣)これは一義的にはイランの政府とイラン国民との間で解決されるべき問題であると考えています。これは選挙後の混乱ですので基本的にそう考えています。事態は今、ハメネイ最高指導者の演説などもありまして、事態は動いているところですので、事態の進捗をよく見ながら、我々としても今後どうするかということは検討していきたいと思います。
(問)言論の自由が尊重されることが重要だというご発言でしたけれども、現状で言論の自由が尊重されていないような事態が起きているというご認識でしょうか。例えば外国のメディア等も含めて、自由な取材が難しい、許されないという事態が続いていまして、或いは反政府派の意見表明が自由に行われるかということにつきましても懸念があるかと思いますけれども、そのようなことを踏まえた上でのご発言でしょうか。
(外務大臣)このような混乱といいますか、どちらか一方が悪いということではなく、やはり秩序も大事だと、一般的に申し上げると秩序ある行動も大事だと思いますし、言論の自由も確保されなければならないと思います。国際社会が注目する中で行われた大統領選挙、その結果生じている今回の事態でありますので、事態の収拾を出来る限りオープンな形で図り、そして、国際社会の懸念に応えて欲しいと考えております。今、お話がありましたように、外国のプレス関係者の国外退去や拘束それ自体、私共も懸念しています。
認識不足も甚だしいのではないだろうか。「どちらか一方が悪いということではない」なんていう唖然とする発言を平気で行い、外務官僚はそれをそのままホームページに載せ、さらに、日本の主要メディア、とくにテレビは、自民党の馬鹿げた出馬依頼と宮崎県知事の馬鹿げた発言には、無駄に時間を割いているくせに、人命が失われ続けているというイランの弾圧問題については、何らこれを重大視して報じない。
この馬鹿げた発言と国際感覚の欠如は、天安門事件で学生たちを弾圧した中国政府およびイランで民衆の平和的抗議活動を弾圧し続けているイラン政府と全く変わらないと言っても過言ではない。
以前、村上春樹氏が私は常に弱い民衆の側に立ち、壁に卵を投げ続けるという趣旨の発言をしていたことを思い出す。
今こそ、世界第二位の経済大国である、日本政府、日本のメディア、そして、日本国民も遠い国の話として、無関心な態度をとるのではなく、この問題に関心を持ち、死者を出し続けているイラン政府に対し、強く抗議して、外交官追放等の行動に出るべきではないだろうか。
日本人として、日本の民主主義の真価が今問われているような気がしてならない。
それでも、私には関係ないと思う人はぜひYoutubeでイランで起こった悲劇的な状況の一旦を見てもなおそう言えるのか考えてほしい。
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最後に、イランの女性人権活動家でノーベル平和賞受賞者のインタビュー記事を以下で紹介する。
イラン 「政治制裁を」ノーベル平和賞エバディさん
6月24日11時34分配信 毎日新聞イランの女性人権活動家でノーベル平和賞受賞者のシリン・エバディさん(62)は23日、ブリュッセルで毎日新聞などのインタビューに応じ、欧州連合(EU)など国際社会に対して、デモ隊を弾圧するイラン政府との外交関係を格下げし、対話を凍結する「政治制裁」を科すよう求めた。イラン大統領選挙の結果に抗議するデモ隊と治安部隊の衝突について「最後は市民が勝利する」と強調した。
エバディさんは「抗議行動の根は選挙問題よりも深い。人権侵害、女性差別、宗教差別、部族差別、検閲に加え、高失業率で人々は貧しくなっており、不満を募らせている」と指摘した。その上で、「デモ隊の主要グループの一つは女性たちだ。(1979年のイスラム)革命以来、女性に差別的な法律が多数できたためだ」と抗議デモにおける女性の役割を強調した。
また、政府が武力でデモ隊を封じ込められるのは「短期間だけだ」と指摘し、「国民を殺してしまうことはできず、最後には人々が勝利する」との見通しを示した。抗議行動がイランの体制変更につながるかどうかについては「将来、何が起きるかを分析するのは時期尚早だ。国民が今、欲しているのは再選挙であり、他の要求は出てきた時に論議することになる」と述べるにとどめた。
国際社会に対しては「平和的な抗議運動がいかに武力と暴力で応じられているか、イランから届く映像を見てほしい」と訴えた。経済制裁には「苦しむのは常に国民だ」と反対しながらも、「暴力が続く限り、欧州諸国はイランと交渉したり、会合を持つべきではない」と語り、EU加盟国に駐イラン大使を召還し、外交関係を代理大使レベルに下げるよう促した。
エバディさんは22日から23日にかけブリュッセルでEUのソラナ共通外交・安全保障上級代表、加盟27カ国大使、フェレロワルトナー欧州委員(対外関係担当)と会談した。http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090624-00000010-maip-int
なお、私はまだ読んでいないのだが、現在のイランの状況を深く考える上で、面白そうな本を発見したので、掲載しておく。
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Comments
イランを気にかけてくれる日本人がいてくれて嬉しいです、ありがとうございます!
直接イランに関わっていると言いたくても言えない状況というのに直面します。
そんな私たちの代わりにこうして書いてくれる人がいることは涙が出るほど嬉しいです。
Posted by: 匿名希望 | 07/14/2009 03:30 am
>匿名希望さん
はじめまして。
コメント有難うございます。
私自身イラン情勢を専門としているわけではないですし、欧米よりの視点かもしれませんが、やはりイラン政府の人権を蹂躙するような姿勢、基本的権利である参政権への弾圧行為は決して見過ごせないと思っています。
世界第二位の経済大国(残念ながら来年は中国に抜かされるかもしれませんが・・・)として、毅然とした外交姿勢を示す必要があると思っています。
なお、イランだけでなくこうした人権への侵害は日本の隣の国、中国でも起こっています。日本政府は中国に対してもしっかりと意見は言える国にならないといけません。下記の日経BPの記事はなかなか参考になる良い記事だと思います。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090715/200181/
直接イランに関わっているということで、いろいろ大変なことがあるのかもしれませんが、がんばってください。コメント有難うございました。
Posted by: ESQ | 07/16/2009 10:14 pm