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06/12/2009

足利事件の反省をどう生かすべきか

検察による謝罪だけで済まされるのかという疑問は当然湧いてきます。

そして、この点について、菅家さんと佐藤弁護士の見解も同じだったようです。

私は、裁判所の判断、とりわけ、2000年の最高裁決定と再審請求を棄却した宇都宮地裁の判断に対する批判も行われるべきと個人的には思います。

といっても、判断した裁判官を罷免にしろとかいっているわけではありませんし、そのような議論には反対です。

東京高裁での再審決定や宇都宮地裁での再審審理を通じて、どうして冤罪が生まれたのかを検討することはもちろん、上記最高裁決定と宇都宮地裁の判断は、どういう理由づけで棄却されたのかをマスメディアも慎重に取り上げて、現役・OBの裁判官や弁護士の見解を交えて、再度分析し、どうしてこのような判断に至ったのかという検証をすべきであると考えるわけです。

既に、多くの国民はこの事件を極めて例外的な事件と考えている風潮があるような気がしてなりません。

仮にDNA検査の精度が上がったことが冤罪証明の理由の一つであるとしても、最高裁の判断は2000年ですから、果たして2000年の時点での科学技術のレベルに照らして、DNAの不一致を発見することが困難だったのか、それとも意図的にそういったDNA検査の重要性を軽視してしまったのか等を検証する必要があるのではないでしょうか。

つまり、17年も無罪で投獄されることが理不尽なことは明らかで、どの時点で、検察および裁判所が慎重な審理をしていれば、冤罪を防げたのかという検証と議論をしなければ、同じ事件は着実に起こり得ます。

なぜなら、我々は人間だからです。

日弁連が、2008年に宇都宮地裁の再審棄却について、批判声明をだしており、これを見る限りは、一番遅くとも宇都宮地裁が再鑑定を実施していれば、1年以上早く冤罪は証明できたはずでしょう。

また、2000年の最高裁決定(最決平成12年7月17日・刑集54巻6号550頁)は、DNA鑑定の証拠能力を認めたリーディングケースとされてきましたが、この判断について汚点がついたのは確かでしょう。

つまり、一般論として、DNA鑑定の証拠能力を認めることは問題ないにしても、本件でその証拠能力を認めたことは慎重さを欠いたという指摘が当時から学者や弁護士実務家の多くによりなされており、結果的に最高裁の判断に誤りがあったと言うことは言わざるを得ないと思われます。

特に、上告趣意書で、①事実審係属時に使われたDNA判別方法であるMCT118法は発展途上の方法であり安定的ではなかったということ、②鑑定資料である保管状態が悪かったこと、③再鑑定の残存資料の保管がなされなかったこと、④データの集積が不十分であったことが指摘されており(鯰越溢弘・刑訴法百選<第8版>153頁)、こうしたことを考慮すると、最高裁の段階で、原審を破棄することが可能だったといえるのではないでしょうか。

実際、最高裁の決定の中に、「鑑定の証拠価値については、その後の科学技術の発展により新たに解明された事項等も加味して慎重に検討されるべきである」という文言も存在しました。つまり、科学技術の進歩により、従前の判断に間違いが生じるという事態を最高裁はこの時点で認識していたことになります。

しかし、かかる指摘があるにもかかわらず、最高裁は原審を破棄せず、裁判所が再度鑑定するなどの措置もせずに、判決が確定してしまったわけですから、結局安易に"科学的"証明を信用してしまい、この文言が単なる修辞語のような役割しかない果たしていないともいえるでしょう。

この問題は、結局のところ、証拠の証明力(証拠価値)問題となり、論理則・経験則の問題につながってしまうのでしょう。そうなると、裁判官だけの常識、経験則をどこまで信頼できるかという限界をこの事件は物語っているのかもしれません。

かといって、裁判員制度により国民が参加すれば、これを防げるかも疑問です。

したがって、裁判官の判断に間違いはないという奢りや根拠のない職業裁判官への信頼を今一度見直し、刑事事件の大原則である「疑わしきは被告人の利益」を徹底すべく、この事件を国民レベルで検証し直すことが必要でしょう。

以下の記事にある菅家さんの指摘、佐藤弁護士の指摘は本当におっしゃる通りだと思います。

菅家さんが17年間耐え続け無罪と言う真実を証明しようと声を上げ続けたこと、佐藤弁護士が諦めずに様々な活動をしてきたことには、本当に敬意と称賛の気持でいっぱいです。

明日は、菅家さんが今後活動していくという飯塚事件について話したいと思います。

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なお、何度も紹介しているが、ぜひこの映画を見ていない方は見てほしい。

<足利事件>最高検謝罪に菅家さん「絶対に許さない」
6月10日22時13分配信 毎日新聞

 足利事件を巡って最高検の伊藤鉄男次長検事が謝罪したことについて、釈放された菅家(すがや)利和さん(62)は10日の会見で「警察、検察は私の目の前でちゃんと謝罪することです。裁判官も同じです。絶対に許さない」と語った。

 菅家さんの弁護団は10日夜に会議を行い、菅家さんも同席。会議後、菅家さんは弁護団とともに東京・霞が関の弁護士会館で会見した。

 佐藤博史弁護士は「本当の謝罪なら、なぜ誤ったかを明らかにすることが大切だ」と語った。また、東京高裁での再審請求の即時抗告審では、捜査段階でDNA鑑定を実施した警察庁科学警察研究所の技師に対する証人尋問を求めていく方針を明示。「弁護側が求める証拠調べ請求にすべて同意していただきたい。早期の再審開始は許さない」と話した。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090610-00000127-mai-soci

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