足利事件の再審開始決定に関する問題点について
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それでは、今日の本題に。
以前にもブログで取り上げた足利事件の再審に関するニュースが流れました。
<足利事件>抗告審「裁判官交代を」…弁護団が申し立て
6月22日20時41分配信 毎日新聞4歳女児が殺害された足利事件で、釈放された菅家利和さん(62)の弁護団は22日、再審請求の即時抗告審を審理する東京高裁の矢村宏裁判長ら3人の裁判官について、交代を求める忌避の申し立てをした。高裁(矢村裁判長)は即日却下。23日午前に再審開始を認める決定を出す見通し。
弁護団は証人尋問などを通じ捜査や当初のDNA鑑定の検証を求めたが、高裁は実施せずに再審開始の可否について決定を出す方針を示した。忌避申し立てで弁護団は「事件の真相を究明するための徹底審理をせず、公平な裁判を期待できない」と主張したが、矢村裁判長は「訴訟を遅延させる目的のみでなされたことが明らか」と退けた。
刑事訴訟法は、裁判官が事件当事者と関係があるなど不公平な裁判をする恐れがある場合に忌避を申し立てられると定める。しかし、審理を遅らせる目的のみで申し立てたことが明らかな場合は、同じ裁判官が簡易却下でき、裁判手続きは停止されない。【安高晋】http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090622-00000086-mai-soci
これについて、簡単に解説をしたいと思います。
現在の状況は、再審請求を東京高裁に行っている状態で、法律的には未だ菅家さんの無罪が確定している状態ではありません。東京高裁が再鑑定を実施したのは、刑訴法445条に基づく事実の取り調べとして行ったものです。
弁護団は、この事実の取り調べとして、証人尋問等を要求しているわけですが、これを行うか否かは裁判所が必要であると判断したときのみ行われることになります。
つまり、取り調べの範囲・方法等は裁判所の合理的裁量に委ねられている(池田・前田、刑事訴訟法p462)と言うことになります。
本件では、検察側が無罪を求めるわけですから、再審開始決定について争いが無く、「再審開始の請求が理由があるとき」(刑訴法448条1項)に当たるため、これ以上の事実の取り調べが必要がないということで、証人喚問等を行わないことになる見込みです。
そこで、弁護人は、冤罪の原因を追及するために、裁判官の忌避の申し立てました(刑訴法21条1項)。通常は、東京高裁の別の裁判官により、申し立てを棄却する決定が出されれることになるのですが(刑訴法23条1項)、今回は簡易却下(刑訴法24条1項)取られました。
これは、訴訟を遅延させる目的のみでされたことが明らかな忌避の申し立てに当たるとして、忌避を申し立てられた裁判官自身で忌避申し立てを却下する制度です。多くの場合は、訴訟の引き延ばしに忌避申し立て制度が濫用されるためにこのような制度が設けられているわけです。
なお、忌避事由というのは客観的に除斥事由(①裁判官が被害者であるとき。②裁判官が被告人又は被害者の親族であるとき、又はあつたとき。③裁判官が被告人又は被害者の法定代理人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人又は補助監督人であるとき。④裁判官が事件について証人又は鑑定人となつたとき。 ⑤裁判官が事件について被告人の代理人、弁護人又は補佐人となつたとき。⑥裁判官が事件について検察官又は司法警察員の職務を行つたとき。⑦裁判官が事件について第二百六十六条第二号の決定、略式命令、前審の裁判、第三百九十八条乃至第四百条、第四百十二条若しくは第四百十三条の規定により差し戻し、若しくは移送された場合における原判決又はこれらの裁判の基礎となつた取調べに関与したとき。ただし、受託裁判官として関与した場合は、この限りでない。)に準ずる事実がある場合に認められるわけですから、「真実を闇に葬り去る、おそれが極めて濃厚」というのでは、認められないと言わざるを得ません。訴訟の遅延ということで、簡易却下されるのは法律的には仕方ないでしょう。
おそらく弁護人は、再審の名誉回復機能を重視して、裁判所が「事実の取り調べ」をもっと行い、真実究明を徹底してほしいという狙いがあるのでしょう。
それに対し、東京高裁の受訴裁判所(事件を担当する裁判官3名)は 、再審決定をするだけの十分な理由があるので、これ以上の事実の取り調べ不要と言う判断をするのでしょう。
再審決定がされると、確定判決の審級に応じて、さらに審判を行うことになります(刑訴法451条1項)。本件は最高裁の上告棄却判決、第二審の東京高裁の控訴棄却判決により原判決である第一審の宇都宮地裁の判決が確定したことになっていますから、宇都宮地裁が再審の審判を行うことになると思います。
だとすると、この再審の審判の中で、事実を解明するれば良いと考える人もいるかもしれません。
しかし、再審の審判では、検察側が無罪論告を行うとしているので、無罪判決が出され、事実上、どうして冤罪に至ったのかという検証をする機会がなくなってしまうわけです。
そこで、弁護団は、再審開始決定前の東京高裁による「事実の取り調べ」により、証人尋問等を行って、真相追及をしたい考えなのだと思います。
この無罪論告を行った場合の再審公判については、中日新聞の記事が解りやすいので、以下で紹介しておきます。
実際、下記の中日新聞の記事にもありますが、再審の名誉回復機能が果たされない場合も多く、裁判所を相手に冤罪の検証をするのが困難だという現実があります。
法律的には、東京高裁は事実の取り調べをこれ以上必要ないと判断するのは正当ではありますが、17年の菅家さんの苦痛を思えば、なぜ冤罪が生じてしまったのかという検証なくこの事件の刑事裁判が終わってしまうというのでは、具体的妥当性が図られているかは疑問が残るところでしょう。
仮に、今日(23日)に行われる再審開始決定前に事実の取り調べが終了してしまえば、菅家さんに残されている方法としては、再審の審判の中で、真実を究明するわけですが、宇都宮地裁の裁判官がどこまで菅家さんの気持ちや再審の名誉回復機能を重視するかというところにかかってくると思います。
今後、冤罪事件の防止(とりわけ、飯塚事件のような死刑判断が出た場合の執行の在り方)、および、冤罪が明らかになった後の名誉回復方法などをもっと検証する必要があると思います。
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再審で「無罪」論告、早ければ年内に判決 菅家さん釈放
2009年6月5日 夕刊栃木県足利市で1990年、保育園女児=当時(4つ)=が誘拐、殺害された事件で、検察当局は、再審請求中に釈放された菅家利和さん(62)=無期懲役が確定=の再審公判に備え、新たな有罪立証をせず、異例の無罪論告をする方針を固めた。早ければ年内にも、菅家さんが再審無罪の判決を受け確定することが確実となった。
有罪認定の有力証拠となったDNA鑑定の信用性が、最先端技術による再鑑定で否定されたことに対し、検察当局は「無罪を言い渡すべき証拠に当たる」とする意見書を既に東京高裁に提出。十分に反論する証拠がないと判断したとみられる。
今後の手続きでは、弁護団も12日までに再鑑定結果への意見書を東京高裁へ提出。裁判官、検察官、弁護人の三者協議を経て、高裁が再審開始の可否を決める日時を指定する。
開始決定が出れば、検察側は受け入れ、確定判決を出した一審の宇都宮地裁でやり直しの審理が始まる。再審になっても検察側は通常、あらためて有罪立証を試みるが、今回は無罪論告をする方針のため、審理は多くても2、3回で終わる可能性が大きい。
弁護側は菅家さんが“自白”に至った経緯を検証するため、取り調べをした警察官や検察官らの証人尋問を求めるとみられるが、裁判所が認めるかどうか注目される。弁護側が「謝罪」を求めた場合の検察側の対応も問題になりそうだ。
検察側が無罪論告をした再審事件では、強姦(ごうかん)容疑などで誤認逮捕された富山の冤罪(えんざい)事件のケースがあり、公判は計4回開廷。再審開始決定からわずか半年で無罪が確定した。誤判に至る実態解明のため弁護側が求めた取調官の証人尋問申請は裁判所に却下された。
足利事件の確定判決では、菅家さんが90年5月、足利市内のパチンコ店から女児を近くの河川敷に誘い出し絞殺した、とされている。
http://www.chunichi.co.jp/article/national/news/CK2009060502000261.html
以下の冤罪をテーマにした映画を再度紹介したい。レンタルビデオでもいいので、ぜひ見て日本の司法の問題、裁判員として司法参加する上での注意すべきことは何かを考えてほしい。
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