6月17日の党首討論について(前半)
以前、このブログの読者の方に、日本のクエッションタイム(党首討論)についてはどういう評価をするのかと聞かれたため、その質問への回答という意味も込めて、6月17日に行われた党首討論についての私見を発信しようと思う。
そもそも党首討論とはどうあるべきかについての私の見解は既に記事にしてあるので、ぜひそちらの方を参照されると、以下で示す、私の評価の基準がどういうところに着目しているのかがより分かりやすくなるだろう。
便宜上、党首討論の流れに沿って、評価していくことにする。
なお、先に一言言っておかなければならないのだが、この評価は当該党首討論を2回見た(?)上で行っている。はてなマークを付けたのは、一回目見ようとしたときに、始まって10分もしないうちに、眠ってしまったためである。つまり、それほど面白みに欠ける、レベルの低いものだった。
なので、以下は気力を振り絞って見た2回目(?)の感想である。
1.冒頭の鳩山氏の問題提起と麻生総理の回答について(0~4分54秒)
まず、冒頭の鳩山氏は最初の質問に入るまでに、2分6秒かかっている。
この間、何を話しているかと言えば、麻生総理の郵政に対する判断を批判するのに時間を費やしている。「判断ができない、判断がぶれる、判断が間違える。」などキャッチフレーズ的なものを使っている点は国民の印象に残りやすいく評価は高いのだが、質問をする前にこれを使ってしまったのは落第点である。
つまり、まず、鳩山代表は、クエッションタイムという本来の制度上、問題提起に当たり、素早く麻生総理に対し、郵政人事問題に対する説明を求めるべきで、批判は麻生総理の回答を待った上で、行うべきであったにもかかわらず、ダラダラと自分の主張を始めてしまっているのである。
クエッションタイムは、裁判でいう証人尋問や当事者尋問に似ていると思うのだが、まず、政府の長である首相に争点に関する主張させなければ、スタートとしては不適切である。
本場イギリスのクエッションタイムで、野党の党首がはじめに質問をぶつける場合、余計なことを話してもせいぜい30秒以内に質問を終了し、総理大臣の回答に移る(もちろん一般論としてであり、そういう決まりがあるわけではない)。なぜならば、首相の回答がなければ、批判すべき対象が定まらないためである。
次に麻生総理の回答についてである。
麻生総理は、2分48秒を費やし回答しているのであるが、鳩山氏の質問に対し答えるべきは、判断がぶれているのかどうかという点に集約されるはずである。
にもかかわらず、民営会社への人事権の行使について、ダラダラと余計なことを話して時間を費やし、この問題において、どういう事実の経緯があり、どういう判断に基づいて、鳩山邦夫氏を事実上更迭したのかという説明を一切していない。これでは全く説明責任を果たしていない。
また、余計な部分である人事権の行使の主張も、内閣総理大臣または内閣として、郵政会社への人事権の行使はすべきでないとの趣旨の発言をしているようであるが、株主が国である以上、内閣が株主として、株主総会に諮られる取締役人事議案に株主権を行使するのは当然できるのであり、必要があればすべきである。
すなわち、麻生総理の説明は、業務執行に対する介入は極力避けるべきという話と株主権の行使として、株主総会議題たる取締役人事に対する介入の話を混同して説明しているのである。
したがって、麻生総理のかかる余計な発言部分は、まるで会社の仕組みを分かっていないのではないかという印象を与えかねない。これもまた落第点である。
なお、面白いのは、麻生総理の回答中の与謝野大臣の顔が「なに言ってんだこの人?よ余計なこと言わなければいいな。」というような表情をしていることである。与謝野氏本人が本当に何を考えていたかは不明だが、思わず笑ってしまう。
2.鳩山代表の質問(郵政問題と北朝鮮)と麻生総理の反論について(4分55秒~11分47秒)
麻生総理の回答に対し、鳩山氏は1分38秒を使って、西川社長を辞めさせるべきという主張をしている。この中で、社民党と国民新党と告発をしたとかいう話をしているのだが、これも無駄な時間である。
もし西川社長の責任を追及するのであれば、具体的な数字を示して、如何にかんぽの宿の売却に係わる入札が不適切であったかの情報をを国民に喚起し、その上で、「民主党が政権を取れば間違いなく経営責任を問うが、なぜ今人事案拒否という株主権の行使をできないのか」と迫るべきである。
にもかかわらず、質問や追及すらせずに、次の話題(北朝鮮問題)に移ってしまっている。これでは、国民の声を代弁しているとは言えないし、野党第1党として果たすべき役割を果たしているとは言い難い。
さらに、約1分30秒を使い、北朝鮮の船舶貨物検査について、法案を早く出すようにと言っているのだが、こんなことを党首討論で話すべきことではない。
野党が同意でき、争点になっていない問題であれば、別の場面で説明が可能であって、わざわざ50分前後の時間的制約のある党首討論で、「法案を早く出してください」などという話をする必要性は乏しい。
では、これに対する麻生総理の回答を見てみよう。
鳩山氏が争点の絞れない質問をしてしまったがために、約3分30秒もダラダラとした回答時間を与えてしまっている。
次に、麻生総理は、郵政の問題に再度、反論しようとしているのであるが、これについても、会社の根本的仕組みが分かっていないと思わせる発言をして、失敗している。
例えば、「われわれとしてはそれは少なくとも取締役という会の決まる前までにいろいろ株主として発言をする、またそれに対していろんな話をするというのは、決して間違っていないとは思います。」と発言しているのだが、株主権を具体的に行使する場面は、株主総会での人事案の賛否においてであり、取締役会決議がなされた後でも、当然株主として発言することに何ら問題はない。
また、仮に麻生総理が言っているのが、個々の業務執行について介入すべきでないという話であれば、確かに通常の会社の場合は、業務執行権限は取締役会にあり、株主が業務執行をどうすべきと具体的な指摘をするのは不適切である。
しかし、郵政会社は委員会設置会社であるため、業務執行権限は取締役会にもなく、執行役にある。
そうすると、取締役会決議の前後で、株主として介入すべきかすべきでないかという問題に違いが出てくるわけではないはずである。
結局、麻生総理が言う郵政会社の取締役会決議とは、何についての決議を差しているのかが不明瞭であるため、こうした会社の仕組みを解っている人が見れば、会社の仕組みそのものを全くもって理解していないのではないかという印象を与えかねず、これも落第点の回答である。
また、民営化の趣旨について言及があったのは良いのだが、その趣旨を総理自身どう考えているのかしっかり説明した上で、鳩山邦夫前総務大臣を事実上更迭した理由を明確に説明すべきであった。
麻生総理の口から、大臣更迭の経緯や理由について、明確な説明がないのが一番の問題であろう(ちなみに、私は更迭したという結論については評価していますが、その話は別の機会に・・・)。
北朝鮮問題についての回答も、アメリカ大統領をブッシュ大統領と言い間違えるなどミスが目立つ。
そのときの与謝野大臣が「え?」というような顔をして、その後苦笑しているのだが、なんとも身内の大臣に答弁を苦笑されるとは情けない。
本来であれば、せっかく北朝鮮問題への政府としての意気込みを示せる重要な機会である。
にもかかわらず、誰に電話しただのと無駄な情報を提供しているあたりが、「国民に答弁を見られている」、「クエッションタイムはとりわけ国民への情報発信、説明責任の場だ」という意識の欠如として、現れているように思えてならない。
3.鳩山氏の質問(医療問題)と麻生総理の回答(11分48秒~19分30秒)
ここでは、鳩山代表が約3分45秒かけて、医師不足の問題、社会保障費の問題を追及することになる。
まず、冒頭、麻生総理の北朝鮮に関する回答の前置きが長いと批判したのだが、「これをいうなら、自分の前置きも短くしろよ。」という批判が聞こえてきそうである。
次に、医師不足の例として、救急搬送でタライ回しにされた患者の例を挙げているのだが、これは高く評価できる。
具体例を挙げて、どういう不都合が生じているのか、国民に身近な問題として感じさせるには非常に有効かつ適切な方法である。
ただ、これも話すタイミングを間違っている。
まず、麻生総理に医師不足の問題についての認識を聞き、その上で、問題が切迫しているという印象を与えるべく、これらの例を出して、政府の対応が遅いことを批判すべきである。絶好の攻撃のチャンスを自ら失っているといえよう。
これに対し、麻生氏は約4分間の回答をしている。
この回答で一番気になるのは、医師不足の問題について、政府が有効な政策を打ち出せないでいることを露呈してしまっている点である。
まず、自ら麻生総理は、鳩山氏の医学部の定員増加という案に賛同するかどうかすら回答せずに、新しい医師を作るには10年かかると答え、この10年間の間の措置として、引退した医師や看護婦に戻ってもらうという案を説明している。
しかし、具体的にどういう整備を行っているのが、数字も一切示していない。地域間格差があると回答しながら、地域間格差の是正についての具体案も一切示していない。
これでは、タライ回しになって患者が死亡するという問題が国民の生命、身体に関わる切迫した問題であるとの認識が欠けているとの印象を与えてしまう。
さらに、麻生総理は、この問題の根本的解決に向けた具体的政策を示しきれておらず、このような答弁では、政府がこの問題について無策だと思われても仕方がない。
ここまでの議論を見ていると、鳩山代表も麻生総理も入念な準備をしてきたとは言えず、ディベート戦略からしても、お粗末すぎる。
ただ、鳩山代表の方が、「判断ができない、判断がぶれる、判断を間違える」と言ったような印象に残りやすいキャッチフレーズを使ったり、医療問題において、具体例を挙げて、国民への印象に残りやすい点で、前半は僅差でリードしていると言えるだろう。
前半戦の評価としては、48点(麻生総理)対52点(鳩山代表)と言ったところだろうか。
さて、かなり長くなってきたので、続き(後半の約20分についての評価)はまた明日にしようと思う。
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Comments
大変興味深く拝読させていただきました。後半を楽しみにしております。
一つご意見を伺いたいのですが、私は、鳩山代表が、国民はこう思っている、とか世論はこうだ、という言葉を頻繁に使い、自分達の意見ではなく、まるで国民全体の代弁をしているのだ、という風な言い回しをされるのにとても反発を感じます。国民といっても意見は様々ですし、世論はマスコミにあおられてそうなっていることも多いと思いますが、いかがでしょうか。
それから、先日は、私の稚拙なコメントに対して、ご丁寧でわかり易いコメントをありがとうございました。うれしく拝見いたしました。
Posted by: nagomi | 06/19/2009 04:30 am
nagomiさん
こんにちは。コメント有難うございます。
先日の貴殿のコメントは稚拙なコメントだとは思いませんよ。遠慮なさらず、コメントしてください。貴殿のようなコメントで感心することが多々あります。
さて、「国民はこうだ」とか、「世論はこうだ」と言うのがおかしいという指摘ですね。
おそらく争点になっているような問題を扱っている場面で、鳩山代表がそういう発言をするために、違和感を持たれるのだと思います。
そういう発言がなぜ出てくるのかですが、おそらく鳩山氏は麻生内閣の支持率が低いという事実から、無意識に国民は自分の政党の意見を支持していると思い込んでいるため、出てくるのだと思います。
国民がどう考えているかは究極的にはわからないのですから、nagomiさんが言われるように、そういう表現に説得力が無いと感じる方も多く、結局説得的な事実を示していないとの印象を受け取られかねないと思います。
何かの世論調査の結果があるのであれば、その数字を示して、国民の多数はこう考えているという主張をするのは一つの戦略ですが、それだけで押し切る姿勢が日本の政治家には多いかもしれません。
ディベートはどちらが積極的かを競うものですから、多数がこう考えるという主張はだけでは何も言っていないに等しいかもしれません。
そういう意味で、鳩山代表が頻繁に使った表現方法に貴殿が違和感を感じたというのは不思議なことではないと思います。
Posted by: ESQ | 06/20/2009 05:26 am