不幸なのは企業の順法意識が低いこと
どこの会社か知りませんが、「なんら違法行為をしていない」っていうのはコンプライアンス意識の欠如甚だしい。
以前も紹介したが、どの時点で、労働契約が成立するかについては、個別具体的事案において、申込と承諾の意思表示があった時点となる。ただ、通常、内定時点を労働契約の成立時と考えることが多いと言うだけで、そこだと確定しているわけではない。
事案によっては、内々定時で労働契約が成立すると判断することだってありえることは労働法の常識である。
この記事にある内定と内々定の線引きがあいまいとうのが、両者にとってもろ刃というが、そんなことはなく、あいまいにしているのは企業側の採用態度が悪いだけだし、労働者側にとって不利益なことは、労働契約の成立を内々定時で立証するのが多少難しいだけにすぎない。
それに、内々定を守らないことが違法ではないとこの企業側は考えているようだが、これも著しい知識の欠如である。
内々定であっても、その時点において労働契約の予約が成立していると判断されること通常である。そうすると、予約を正当な理由なく解約することは、予約契約の不履行にあたるのであり、損害賠償請求の対象となるのは当然である。
また、別の構成としてありうるのが、内々定により、労働者側には期待権が生じるのであり、内々定を取り消す行為は、期待権侵害の不法行為責任を負うことにもなる。
この記事を読んで、「約束を守らないことが違法ではない」という考えが蔓延しているような気がし、ますます日本企業の法令遵守に対する意識の低さに愕然とする思いである。
「内々定」取り消しで解決金支払い命令 企業には戸惑いも
4月14日0時19分配信 産経新聞採用内定式の直前に「内々定」を取り消したのは違法とする労働審判の決定が13日、福岡地裁であった。申立人側によると、「内定」同様に「内々定」にも労働契約の成立を認めた初めての判断という。「内々定切りにまで救済の手が伸びる」と評価する声がある一方、萎縮(いしゅく)した企業側には「採用活動がやりにくくなる」という戸惑いの声も出ている。内定と内々定の線引きがあやふやなままでは、今回の判断が、両者にとって「もろ刃の剣」になる恐れもある。
損害賠償を求めていたのは福岡市の元男子学生。市内の不動産会社から昨年7月に内々定を得たが、10月2日の内定式2日前に、不況を背景にした急激な経営悪化を理由に内々定を取り消された。本人はその後、就職活動を再開して別会社に入社した。
代理人の光永享央弁護士の話だと、審判では「取り消しが内定式直前だったうえに、文書1枚での誠意のない通知だった」という会社側の対応を、落ち度として指摘。解決金75万円の支払いを命じた。光永弁護士は「内々定でも労働契約が成立することが指摘された。泣き寝入りしている多くの学生を勇気づける画期的な決定」と評価する。
一方、不動産会社は「迷惑はかけたが、何らの違法行為もしていない。提訴して裁判の中で争うことを考えたい」(広報担当者)と、決定内容に反発する。
日本経団連と大学側の申し合わせによると、「内定」とは入社前年の10月1日に出されるもので、それ以前の状態は「内々定」。
不動産会社は「内々定の状態では労働契約は成立していないはず。だから10月になる前の段階で採用できないことを伝えた」(同)と戸惑う。
同様の思いは企業の人事担当者には少なからず共通するようだ。中堅自動車部品業の人事担当者は「学生側だって3つも4つも内々定を持っているケースがあり、企業側が直前に振られて迷惑することもある。内定と内々定は、労働契約上は異なるものであった方が、学生にとっても選ぶ企業の選択肢が増えるというメリットにつながるのでは」と話す。
学生向け就職誌「マイナビ」の栗田卓也編集長は、「ここ数年は好況が続いてきたので内々定切りの実態がなく、その段階での契約をどう考えるかは論じられてこなかった」と指摘。その上で、「企業の言い分も分かるが、企業に比べ学生の立場は弱い。彼らの人生を軽視した対応だけは取るべきでない」と話す。
厚生労働省によると今春卒業者で内定切りが確認された事業者は404社。内々定については区別して定義をしていないという。ただ、厚労省の大隈俊弥若年者雇用対策室長は「『内定式前』といっても、労働契約が成立していないことの合理的理由にはならない。事業主の一方的な都合による取り消しには、厳しい姿勢で指導していきたい」と話している。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090414-00000502-san-soci
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