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03/07/2009

検察出身者としてはバランスのとれた解説(西松事件についての郷原弁護士の解説)

検察出身者でも、私と同じような問題意識を持っている方がいるようである。

郷原信郎弁護士である。

郷原先生は、検察官任官後、公正取引委員会事務局審査部付検事、東京地方検察庁検事、広島地方検察庁特別刑事部長などを歴任し、桐蔭横浜大学法科大学院教授、同大学のコンプライアンス研究センター長を務めている。

こちらのリンクから同氏に対するインタビューと同氏の説明がなされている。

同氏の解説は、検察出身者の割には非常にバランスが取れているし、法的解説も正確になされている。さすが、ロースクールで教鞭をとり学生相手に説明をしている先生だけあるなと感じる。

ぜひ、日頃のマスメディアやメディア弁護士(メディアの意向に沿った解説しかしない弁護士)の不十分な解説しか聞いていない方は、同氏の解説を参考にしていただきたい。裁判所が裁判において事実認定する場合に考慮する観点が整理されていると思う。

一部紹介すると、メディアなどで検察出身の弁護士は、政治団体のダミー性の認定は今回の事件においても容易であるかのような説明をしている。しかし、郷原先生も強調されているが、政治団体の場合、通常の会社などのような法人格否認の法理以上に厳しい要件が要求されることになる。

たとえば、法人格否認の場合の形骸化事例では、①財産の混同、②事業の混同、③機関の不開催などが考慮要素として、実質的に背後者と一体でまったくの個人企業といえるかどうかが判例の基準である。

しかし、これはあくまでも、通常の営利法人の場合であって、政治団体の場合は、それがダミーと認められるには、より厳しい要件が要求され、考慮要素もこれら3つだけで決することは難しい。つまり、全く何の活動もしていないおよそ脱法目的で作られた団体と認定できなければ、有罪は難しいわけである。

なので、検察がここまでの立証が可能な物証(例えば、明らかに脱法目的で作り、実体がないことを認めているものがあるなど)が無ければ、有罪にはできないわけである。

ぜひ、より詳しく説明されているので、見ていただきたい解説の1つである。

他方で、政府高官の発言が問題になっている。これは先日も言ったが同然だろう。マスコミもそろそろ名前を明かしてもいいのではないだろうか。

記者クラブ制度で、権力と持ちつ持たれずという関係があるのだろうが、検察捜査への疑惑が生じる発言をしており、かつ、それが一部報道によれば、警察庁長官を務めた人間の発言とされており、重大な公共の利害にかかわる事実である。

今回は政治と金もさることながら、支持率の低い首相が居座ることによる民主主義政治の成熟性の乏しさ、かつ、公権力の情報を垂れ流すだけのマスメディアの本質的機能の欠如、さらには司法に対する信頼の毀損が問題になっているのであり、経済が破たんしつつある中、日本沈没という事態になりかねないと危惧しているのは私だけではないだろう。

違法献金 政府高官の発言「事実なら奇異」小沢代表
3月7日13時34分配信 毎日新聞

民主党の小沢一郎代表は7日午後、西松建設の違法献金事件に関連し、政府高官が自民党関係者の立件には踏み込まないとの見通しを示した問題について「コメントする立場にないが、事実なら奇異な感じがする」と批判した。自らについては「(秘書が)起訴されたり、裁判になったりということは考えていない」と強調した。党本部で記者団の質問に答えた。また同じく同社から献金を受けていた二階俊博経済産業相については「論評できない。自民党の説明責任は本人と自民党が考えること」と言及を避けた。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090307-00000014-maip-pol

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Comments

とても参考に成りました。ありがとうございました。日本国民は、私を含めて、テレビの報道だけに、右往左往する人種の様です。
自分の頭で考えて、行動できる人間に成長できない様では、国も良くなりませんね。
郷原先生のメッセイジリンクを、みなさんが見られると良いのにと、思います。

Posted by: sayuri | 03/08/2009 08:31 pm

Sayuriさん

はじめまして。コメント有難うございます。
参考になったとの言葉、嬉しい限りです。メディアリタラシー論の必要性というのが叫ばれて久しいですが、なかなか日本ではまだ定着していないようですね。

テレビなども小泉劇場の反省をしなきゃいけないと口では言いますが、劇場型報道は変わっていません。さらに言えば、松本サリン事件の河野さんへの理不尽なメディアスクラムや決め付け報道への反省も全く生かされていませんね。

小沢西松事件の真相はわかりません。裁判という公の法廷で立証が尽くされて初めて、事実が何かがわかるわけです。であるなら、「小沢ならやりかねない」とか、「特捜が動いたらアウト」という決め付けの視点は、裁判員制度が始まる上で、裁判員が冤罪を助長するという事態になりかねないと危惧するわけです。

よく、水戸黄門や遠山の金さんを例にあげ、日本はお上を信用し過ぎる風土があるという声もありますが、時代劇でさえ、最初は否認していても、重大な証拠が突き付けられた後(水戸黄門や金さんが目撃したぞと名乗りを上げた後)は、自白しています。

任意性のある自白があるなら、報道も多少断定的になってもいいと思いますが、否認がなされている以上は、報道もそれを受ける国民も冷静な判断が必要だと思いますね。

ちなみに、郷原先生は、日曜日の朝のサンデープロジェクトでも同様の解説をしていたようです。

Posted by: ESQ | 03/09/2009 01:36 am

お返事ありがとうございます。本当にそう思います。私は小泉劇場の時は、岡田さんを支持していまして、小泉さんのあの無責任な行動を、危惧していたものです。あの頃もそうですが、お金の問題で、与野党同じ事をしても、与党は余程酷い事をしない限り捕まりません。何時も野党の方ばかり、捕まってしまいます。今回の件も別に政治献金を貰っているのは小澤さんばかりでなく、前の首相も貰っていますし、尾身さんや、二階さん、金子さんも大臣の時に、受注した業者から、パーティー券や企業献金を貰っていると、テレビで言っていましたが、これは違法じゃないのでしょうか?

世論調査の数字が出ていましたが、これを答えた人達は、何を根拠に、自民党支持に成ったり、民主党支持に移ったりしているのでしょう?又小澤代表の会見を聞いて納得できないと言っていましたが、どれだけの人が40分に渡る会見を聞いたのでしょう?ニュースなどは一部を取り上げてしか報道されないので、それで判断して、答えるなんて私には、考えられません。

今回の件も小澤秘書は即逮捕、二階秘書は強制捜査もされなくて、任意動向で話を聞くとのこと。小澤秘書が逮捕されて数日、十分に証拠隠滅できる時間がありました。国民はこの不公平さには、全く変とは思わないのでしょね?

でも 民主党がまだ小澤さんを支えて頑張って行くと、言っていましたので安心しました。お金の話も、政権交替する事で、徐々に良くなって行くのでは無いでしょうか?
そのことよりも、国民はまず自分たちの生活が少しでも、暮らしやすく成る様な、政策を実行してくれそうな党の応援を、少々欠点はあっても、今はそれしか選ぶ道はないのでは、無いかと思います。

私が小澤さんは、他の議員と違うと思った点は、掲示板をホームページに置いている事です。小澤さんは、他の議員と違い、どんな意見でも聞こうとしている態度は、私は素晴らしいと思います。自分に耳の痛い事も、聞こうとする態度は、議員にとって必要な事ではないでしょうか?その後岡田さんもおかれましたが。自民党の大物議員などは、ホームページもなく、履歴も書いていません。1日でも早く政権交代が出き、日本が自立した国に成る様祈らずには居られません。

Posted by: sayuri | 03/09/2009 08:47 pm

Sayuriさん

コメント有難うございます。おっしゃる通りではないでしょうか。
検察権の行使には不公正さがあるという印象を持たれてしまうこと自体問題です。最近はこのことに対する検察の認識が低い感じがしてなりません。

検察は行政権に属しつつも、準司法的性格があるという理由で、ある種の独立性を認められてきました。それの根底には、不公正な権力の行使が無いことが前提となっており、従来の検察機構は特にその点に気をつけていたと思います。

しかし、最近は裁判が始まる前に情報が「関係者」という形で漏れ出すことが多く、容疑者段階で犯人扱いです。

また、特捜部が動いた事件で、政治的意図があったのではないかと疑われている旧長銀経営陣への証券取引法違反事件についても、無罪が確定し、リーク情報が必ずしも犯罪の成立を立証する証拠としての適性があったのかは疑問です。

少なくとも、特捜部が動いた事件で最近に無罪判決が最高裁で出ていることの重大性を司法関係者はもちろん、マスメディア、国民一般も認識して、思考停止による思いこみをやめる必要があるでしょう。

その意味でも、今回の事件では、小沢氏や政治家の不信などと嘆く以前に、国民の資質、民度の高さも問われているような気がしますね。

Posted by: ESQ | 03/12/2009 07:09 pm

某葉玉ブログのコメント欄にてヤメ検弁護士同士の場外バトル(?)が繰り広げられていました。
ご参考までに引用します。
=================
Q5
検察の説明責任についてはどうお考えでしょうか。
同じ元検察でも不要という方と必要という方いらっしゃいます。
「法令遵守が日本を滅ぼす」を書いた郷原さんは、
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090323/189737/?P=1
にて、民主主義という観点からその必要性を説いています。
私も法の運用如何でどうとでもなりそうな穴だらけの法律とも考えられるゆえ、
同感なのですが、葉玉さんはどのように考えますか?

「悪法もまた法なり」で、どんだけ悪用されようが公務員である以上、法には
従っていれば問題ないのでしょうか。
自身が検察をしているときに、そのような事態に遭遇したことはなかったですか?
遭遇した場合、思考停止させない限り、自身を正当化できないように思うのですが、どう思われますか?
蛇足ですが、私は特定の政党に思い入れはないです。

衆愚政と「遵法精神」の生み出した「あってはならないもの」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20090319/189540/?P=1
投稿: | 2009年3月24日 (火) 15時21分
A5
私は、郷原さんの言っていることは間違いだと思います。
私は、今回の事件で、検察に説明責任があるとすれば
 悪質な犯罪なので公判請求しました
という一言で十分だと思います。。
そもそも、検察は、粛々と捜査と起訴又は不起訴処分を行うところであり、いちいち政治家関係の事件をやるたびに、なんで公判請求をしたのかという説明を求められるとすれば、処分に政治的配慮をいれるようになってしまいます。

総理大臣だろうと、野党の党首だろうと、その秘書だろうと、犯罪を犯せば、適切に処分するのが当然です。

私は、ほとんど無党派層ですが、小沢さんが言っているのは、
  みんながスピード違反しているのに、うちの秘書だけ捕まるのはおかしい
と言っているに等しいと思います。
 政治資金規正法が、献金の透明性を確保するという趣旨ならば、ダミーの政治団体を使って企業献金であることを隠す行為は、法の趣旨を没却することになります。
「記載しない」ことと、「ダミーを使って資金拠出者を隠す」のは、実質的には何もかわりません。
 正々堂々と、「小沢一郎は、西松建設から3500万円もらいました」と言えば良かったです。そうした事実が明らかになれば、国民は、「西松はなぜそんなに献金するのだろう」と不思議がるでしょうし、マスコミは献金の影響で公共工事が左右されるようなことがないかどうかを一生懸命監視するでしょう。
 政治団体の寄付にするから、監視の目が行き届かなくなった。それだけでも、大問題です。
 民主党は、党首の廉潔性が問われているのに、なぜ事実を調査しないのでしょうか?
 民主党には、自浄能力はないのでしょうか?
 国民は、小沢氏の秘書がなぜ政治団体を使ったのか、その理由も知りたいし、なぜダミーだとわかったにも、かかわらず献金を返金しないのか、知りたいと思っているのではないでしょうか。
 それとも、民主党は「企業が民主党の議員に献金する場合、ダミーの政治団体に寄付させれば問題ない」という見解を採っているのでしょうか。
 また、小沢氏は、「企業ならば、政党支部に寄付させればよい」という趣旨の発言をしていますが、この発言自体、政治家に対する企業献金を禁止した法の趣旨を無視しているように聞こえます。たとえ、それが実態だとしても、正々堂々と発言するような内容ではないと思います。
 企業献金であることを隠すためにダミーの政治団体を使って献金を受けたという行為自体、弁解できない行為であるにもかかわらず、つべこべ言い訳を続けるのは、傷を深くするだけです。
(引用以上)=============

Posted by: scott1982 | 04/02/2009 07:02 am

>Scottさん

葉玉先生と郷原先生の見解が異なるのは面白いですね。

個人的には、どちらの見解にも私は納得できないと思うこともあります。

たとえば、葉玉先生の見解ですが、「『記載しない』ことと、『ダミーを使って資金拠出者を隠す』のは、実質的には何もかわりません。」と言われている部分には法的解釈としてこれが正しいのか疑問があります。

というのは、政治資金規正法は、献金行為をした者の氏名等を記載することを要求しているにすぎず、資金拠出者の氏名等の記載を要求しているわけではありません。

そうすると、葉玉先生の見解には、「資金拠出者の氏名記載が法律上要求される」という解釈が入るわけですが、これが、まさに今後の争点になる部分であり、葉玉先生の解釈が妥当なのかは裁判官による判断を待たなければ何とも言えないでしょう。

他方、私は、郷原先生のいう程度の説明責任(郷原先生は5つのポイントを挙げています)が検察に生じるかどうかについては疑問があります。具体的な説明に関しては、公判を通じて明らかにすべきと思うからです。

ただ、今回はあらゆる方面から検察の捜査権の行使方法に対して疑義が呈されているわけですから、それを払しょくするだけの説明責任は国民主権の原理から当然準司法権として負うと考えます。

また、明らかなマスコミに対するリーク、情報操作があることも否めません。この問題に関わらず、特捜が扱う事件ではそういう傾向が近年は特に強いと思われます。

一旦逮捕・勾留、起訴という手続くを踏むと、たとえ最高裁で無罪が確定しても十分な名誉回復がしにくい社会的風土が我が国にはありますから、その辺も踏まえて、検察権力にあり方に対する疑問は当然多くの一般国民が抱いていると思います。

その疑問に答えることは検察機構としてすべきだと考えます。

Posted by: ESQ | 04/11/2009 01:17 am

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Tracked on 03/08/2009 12:58 am

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