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01/25/2009

冤罪事件の一例か?

民事訴訟ではあるが、痴漢冤罪事件における供述証拠のみによる事実認定に関係する最高裁判決が出ている。

その要旨は、「痴漢の虚偽申告を理由とする原告Xの被告Yに対する損害賠償請求訴訟において,目撃者が見付からない場合に,これに準ずる立場にある者の証人尋問を実施せず,Yの供述の信用性を肯定して,Xが痴漢行為をしたと認めた原審の判断に違法があるとされた事例」となっている。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081107155057.pdf

簡単に言うと、

1.電車内での通話を注意されたYが、Xに痴漢をされたと警察に連絡した。

2.Xは現行犯逮捕され、勾留、勾留延長がされ、起訴前勾留が可能な期間である最大日数期間の20日間身柄拘束された。

3.勾留期限までの取り調べで、①YとXの供述に食い違いがあること、②犯行時にYと通話していた証人Aの供述とYの供述に食い違いがあることが明らかになり、さらに、Yが捜査に非協力的になったことから、検察官は不起訴とした。

4.XはYの申告が虚偽であったとして、損害賠償を請求した。

5.原審である東京高裁は、Aの供述とYの供述に食い違いがあること(Yは「股間を押し付けられ、『離れてよ』と言った。その後、携帯電話を切るようにXから注意を受けた」と供述しているのに対し、Aは「『変な人が近づいてきた』その後間も無く『電車の中で電話してはいけない』という男性の声が聞こえた」と供述)は、電車内での騒音が原因で、食い違いが生じても不自然ではないと判断。Yの供述に信ぴょう性を認め、原告Xは敗訴。

以上のような事案である。

最高裁は、原審の判断は、Yの「変な人が近づいてきた」という声とXの「電車の中で電話してはいけない」という声の具体的間隔や、その間のYとAの通話のやりとり、Aが感じた騒音の程度などを審理せずに、騒音と推測してYの供述の信用性を認めており、審理不十分であるとして、東京高裁に差戻しの判断をした。

この判例から感じるのは、高裁の判断が最近は最高裁により覆されることが多くなっていることである。この判決を見る限り、高裁の判断はあまりにもお粗末であることは明らかであろう。なぜ、こうした事務処理的な判断となってしまっているのか、非常に問題があるところである。

近年、高裁人事を見ると、藤山裁判官のように、当事者間の証拠偏在の是正を重視した訴訟指揮をして、丁寧な事実認定をする裁判官が高裁に異動してくることが多い*。

一昔前までは、国の方針に反するような判決を書く裁判官は左遷されるというのがもっぱらの噂(?)であった。人材面での改革を進めている様に感じる。

そういう意味でも、最高裁の今回の判断は、下級審に対し、事務処理的な事実認定に対する警鐘なのかもしれない。

*なお、同裁判官については、ネット上でもいろんな意見があるようだ。最近は医療関係訴訟を多く扱っているため、同裁判官を支持する見解に対しては医療関係者による徹底的な批判がなされているのを依然目撃したことがある。

同裁判官の判断が良いか悪いかは別にして、作為的な炎上行為に対しては、ネットマナーとしていかがなものかと感じる。

最近では、医者を批判する見解をHPに載せた専門家に対し、医療関係者による炎上行為がなされたようだ。

また、この件については別の機会に記事にしたいが、いずれにしても、法曹も医者も資格による市場独占の既得権益を持っている以上、それに対する批判については、匿名のインターネットを通じた炎上行為に走るのではなく、真摯に耳を傾けるのが、専門職としてのあるべき姿であると感じる。

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