2008年最後のニュース評論(イスラエル・パレスティナ問題)
2008年(平成20年)も残り24時間を切った。今年最後の記事を何にしようかすごく悩んでいる。というのも、暗い話や重たい話ばかりについて記事にしてきたので、最後くらいは明るい記事がいいのかなとも思ったりしたからである。
しかし、2008年の表す漢字が「変」だったことを考えると、確かに変えるという肯定的な意味がある一方で、やはり世界全体が「変」な方向に行っているのではないかと危惧する気持ちが強くなった。
そこで、このブログのテーマでもある既存メディアとは一線を画した情報の発信という点に立ち返って、以下の記事を触れつつ、最後のブログを締めくくりたい。
カザ空爆というニュースは過去10年以上の間、何度も耳にしている。どうも日本にとってはこうした、イスラエル・パレスティナ情勢というものについては、『遠くの出来事』であって、関心は薄いだろう。
私はアメリカとイギリスの両方に住んでいたことがあるが、前者のメディアではイスラエル寄りの視点からこの情勢が常に伝えられてきたし、後者のメディアでは、パレスティナ寄りの視点から報道されてきた。
はっきり言ってどっちが悪いということはニワトリが先か卵が先かという議論のようなもので、様々な利権や感情が複雑に絡んでおり、簡単に判断がつく問題ではない。
結局、この問題は宗教問題に行きついてしまう。イスラム教とユダヤ教との対立軸の中に、ユダヤ教迫害に対する反省の歴史観が強いキリスト教がユダヤ教へ一定の理解を示しているという説明がもっとも単純な図式だろう。
そして、アメリカにはユダヤ人人口がある程度いるため、親イスラエル的立場になる。
他方、イギリスはイスラム教徒の移民も多いことや過去に、 アラブの中東独立を認めるフサイン・マクマフォン協定や、ユダヤ人による中東支配を認めるバルフォア宣言、フランスとの中東分割を約したサイクス・ピコ協定など優柔不断な外交政策に対する反省から、親パレスティナ寄りになる。
つまり、ユダヤ人とアラブ人により、中東をめぐる独立国家の建設とそれに伴う利益配分をめぐり、イスラム過激派による日常的なテロとイスラエルのタカ派による報復攻撃が繰り返されているのが現状である。
なので、どちらが悪いとか単純に判断すべき問題ではない。ただ、今回注目すべきは、アメリカだけでなく、イギリスやドイツ、イスラエルに一定の理解を示していること、さらには、親パレスティナのエジプトやパレスティナ政府自身が非難の矛先をイスラエルではなく、イスラム原理主義組織のハマスに向けている点である。
ある程度国際政治に知識のある人間であれば、十中八九は、パレスティナ内のイスラム原理組織のハマスを何とかしなければ、和平は難しいことを認識している。
他方で、イスラム原理主義の攻撃が続けば、イスラエルがタカ派に転じ、さらなる軍事的緊張が高まる。イスラエルも1993年に和平合意の調印がなされたラビン首相(左派・労働党)が1995年に暗殺されると、それを引き継いだペレス首相は次の選挙で、タカ派のリクード党に敗れ、ネタニエフ首相やシャロン首相などが対テロ政策で成功しつつも、両国の関係は改善せず、逆にパレスティナでのハマス勢力の拡大につながっている。
つまり、イスラエルが対テロ政策を強めれば、パレスティナ内でのテロ組織であるハマスが逆に支持され力をつけるという構図がある。
現在、イスラエルはオルメルト首相であり、中道政党のカディマに属している。また、パレスティナ自治政府はアッバス大統領であり、和平には積極的であるものの、パレスティナ内のハマス勢力を抑えることができず、対応に苦慮している。
ハマスも貧困層が支持しているため、議会の過半数を得ている。これが事態を混迷させており、テロ組織であるため、アッバス大統領など政権の中心である左派政党ファハタと一時期は連立するが、結局連立は失敗した。
以上のように、この問題にどちらが悪いということはいえない。両国内でも努力しているリーダーはたくさんいる。しかし、言い方は悪いが無知な貧困層が報復感情などから殺戮を好み、テロ組織のハマスや強硬派のリクードを支援してしまうため、いつも和平プロセスが頓挫している。
私は、この問題を耳にすると、いつも永遠に解決できないのではないか、人間の本質的な性悪説を物語っているのではないか、合意や法というものが機能しないのはなぜなのか、などと様々な考えを巡らせるが、何が有効な手段なのか全く思いつかない。
確かに、法律を専門としていると、ルール(規範)をもとに事案の解決を図ろうとする癖があるため、このような規範といえる規範が機能しておらず、解決策の見えない問題については考えても無駄のように感じることがある。しかし、それでも私はこの問題への関心は失わないようにしている。
日本ではこの問題についてあまり報道されず、空爆があった、テロがあった、何人死んだ、抗議デモがあったというような単純な報道のみがニュースとして流れるだけである。また、取り上げられる抗議デモも、空爆をやめるべきという単純なもので、本質的な解決をどう図るべきかは全く語られない。
世界第二位の経済大国であるならば、単に恐慌だ恐慌だと騒ぐ報道や、一方的に空爆をしているイスラエルの悪質性を強調する報道だけでなく、何が問題の本質なのかを公平な視点から考え、日本が政治的に何ができるかという深い分析をした報道番組があってもいいと思うのは私だけだろうか。
それができないメディアの現状をみると、非常に稚拙で自己満足な無責任主義がはびこっていると情けなくなる。
<ガザ空爆>負傷者「市民に被害」証言
12月31日1時17分配信 毎日新聞「イスラエルはガザの若者全員を殺りくしようとしている」。イスラエルのガザ空爆でエジプト側に搬送された患者や家族が訴えた。患者らは30日、イスラエルの標的がイスラム原理主義組織ハマスを越え、一般住民へと拡大していると強調した。【イスマイリア(エジプト・スエズ運河西岸)高橋宗男】
ガザとの境界から約200キロ南西のエジプト・イスマイリア。「やつらはモスクを破壊した」。30日午後、スエズ運河大学病院に運び込まれたガザ地区の警官、ムハンマド・ケトナリーさん(29)は、苦痛に顔をゆがめた。
イスラエル軍は27日午前に約30カ所への同時空爆を始めた。ケトナリーさんは若手警官を訓練中だった。後輩の多くは死亡した。
同じ警官のラシャド・アブフジャイヤさん(22)は警察庁舎で空爆を受けた。がれきの下敷きとなり両足は粉々に砕け、一緒に朝食をとっていた同僚6人は死亡したと聞かされた。エジプトに搬送後、それまで入院していた病院が空爆されたと知った。「連中はモスクで礼拝中の人たちも空爆した。ハマスを支持する市民はみな標的にしている」と、イスラエル側の「無差別攻撃」を非難する。
イスラエル側はハマスが標的と強調するが、市民の被害は明らかだ。警察署向かいのイスラム大学に通うムハンマド・ハティーブさん(22)は友人5人とともに警察署を狙った空爆に巻き込まれ、友人3人は死亡した。
父親のハフェズさん(59)は「若者たち全員が狙われている。イスラエルはパレスチナの将来を担う世代の抹殺を進めている」と語り、息子をいたわった。
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